ロミオとジュリエットは何故不幸になったのか【エルヴィン】
第3章 かつての私
「そう・・・か。ラウリィは調査兵だったからなぁ・・・」
私には五年前、調査兵の恋人がいた。
彼の名前はラウリィ・ダーウェル。
彼は私よりも年上だったが幼い頃からずっと一緒にいた
幼馴染で、元貴族だった。
貴族だった彼は昔から壁の外を夢見て、
将来調査兵団に入って巨人から領土を奪還するのだと、
私に語り続けていた。
彼は次男だった為、長男が家を継げば自分は自由になると
考えていたようで、実際彼の両親は彼にはあまり興味が
無さそうだった。
私もいつか家を出て、彼と結婚したいと考えていたので
幼いながらも色々な事を調べた。
しかし、彼の親が権力闘争に負け家が取り潰されてしまった。
父親と長男はそれぞれ不慮の事故と変死体で発見され、
その現実に耐えきれなかった母親は自殺した。
生き残った彼はその時13歳で、逃げるように
訓練兵団に入ったのだった。
それから私と彼はこっそり連絡を取り合い、
彼の休みの日には街で会って様々な事を話し合った。
突然一般市民(しかも孤児)として生きていかねばならなくなった
彼の苦労は相当なもので、私からも出来る限りの援助も
していた。
そして私はその時から一般市民として生きる覚悟を徐々に決め、
まずは一般的な金銭感覚と思想を学び始めた。
これはいつでも彼の下へ嫁げるようにという思いからで、
いつか彼が調査兵団に入っても一人で暮らしていく覚悟が
出来るようにという下準備でもあった。
でもこの時私はまだ11歳で働ける歳でも無く、
本当にやれる事が限られていた。
それでも街を徘徊し、様々な店を覗き、人々の声に
耳を傾けているだけで、貴族としての自分の価値観が
おかしいというのは理解出来たから、それは無駄では
なかっただろう。
時には彼と壁外遠征へ行く調査兵団を見送ったり、
遠征から戻ってきた無残な調査兵団を迎えたりもしていた。
酷い有様の調査兵団を見ても彼の信念は揺るがなかったようで、
その姿を見て私はますます様々な覚悟を少しずつ決めていった。