第1章 『はじめまして』
「波崎テルさんですよね」
突然名前を呼ばれたと同時に、動きが止まる。
誰、いいとこだったのに……。
ちゃんとその人を見れば、黒色の暑苦しそうなスーツに身を包んだ男性が一人居た。じっとこちらを見ながら。
スーツの男性は大きな歩幅でこちらまで歩いてくると、空気を読めないのかまた私の名前をフルネームで呼んですぐ、自身の持つ鞄から透明のクリアファイルを向けてきた。
見てってこと?
受け取ることなくそのままファイルを見つめれば、「あなたに大事なお話があります」と付け加えてきた。
『このままじゃダメなの?』
「宜しいのですか?」
私が聞いてるのに。聞き返さないでよ……。
調子が狂う。
「大事なお知らせと言いますのは」
一体この人はなんなんだろうか。
可笑しすぎるでしょ?そう思わないですか?
死のうとしている人に対して何の大事な話があるなのか。不思議て仕方ない。