第2章 『審神者』
『この桜は…』
「ヤマザクラと言います」
『ヤマザクラですか…』
「雅だね」
なんとも美しいと続けて歌仙様は言った。
ほんとにそうだと思う。
淡紅紫色の花びらが風に吹く度、小さく揺れた。
「案内は以上になります。宜しいですか?」
『ありがとうございました!詳しく教えて頂いて、わかりやすかったです!!』
再度玄関へ集まる。
すぐに案内をしてくれていた女性が、残りの仕事があるからと此処でお別れとなった。
またいつでも会えるわと言われたので他に何も聞かないまま見送る。
『夕食にでもしようか』
「炊事なら任せて下さい。ほんの少しの知識ではありますができないことはないと思うのだが」
『それなら、お任せしますね?私はおかずを作ります』
遅くなってしまったが夕刻時までは間に合うはず。
手を洗い終えて直ぐに台所に向かい、政府から先程受け取った食材を確認しながら何を作るか考えた。
初日という事で、そこまでこったものは出来ない。
が、美味しいものが食べたいので、取り敢えず好物を作ることにした。
大広間に並べられた机に出来上がったご飯を置いていく。
「美味しそうだね。いい匂いだ」
味に保証は無いけど、見た目は上出来だと思う。
あと匂いも。
『冷めないうちに食べましょう』
「そうだね。頂くよ」
お箸は探してもなかったので、スプーンを使った料理にした。
なので、定番のオムライスにしてみました。
スプーンを手に取り両手を合わせる。
『いただきます』
そう言ってご飯を食べようとすると歌仙様は、それはなんだい?と不思議な目で私を見た。
そうか。
食事前の挨拶を知らないんだ。
『いただきますと言うのは、食事を始める際の日本語の挨拶なのです。「いただく」から派生したもので、「ます」をつけないと挨拶として機能しない連語であるとか。
単純な食前の挨拶になっている面があるため、自分で作った料理でも言うことがあるんですよ』
「それは美しいね。私も覚えよう」
自ら両手を合わせ、「いただきます」と口にすると、オムライスを食べてくれた。
美味だと。