第2章 手のひらにダイヤモンド【4部 仗助】
「え」
「おまじないです。このケガが早く治るように」
そう言ってそっと目を瞑る仗助くん。
え、えッ、ど、どうしよう。そりゃ確かに昔はよく手を繋いで歩いたりしたけど、お互い小学校を卒業したくらいからはちっともそんな事しなくなっちゃったし、ていうかこんな道端で、ああどうしよう、仗助くんの顔見るのも恥ずかし…わあ、仗助くん、まつ毛長いな。改めて見たらほんとに綺麗な顔…ってやだ私ったらこんな時に何考えて
「よし、これでもう大丈夫」
にこ、と顔を上げた彼の視線にはたと我に返るまでの時間はほんの2,3秒。
だが、突然のことに思考が付いていかない私は、ぽかんと口を開けて目の前の綺麗な瞳を見つめている。
「…あッ!す、スミマセン!!」
未だ私の手を握ったままだった仗助くんが慌てて離れた。
「い、いやその、別に変な意味じゃあないっスよ!?ホント、ホントにおまじないですから…!」
何故か今更になって自分のしたことに動揺しているらしいが、余裕がないのはお互い様だ。
どちらも、次に何と言えばいいやら分からない。
「あ、え、えっと、」
「あーッと!そ、それじゃオレ、今日は急ぐので!いってきますッ!!!」
仗助くんは大袈裟な身振りでそう言うと、どう見ても不自然な笑顔で走り去っていった。
……だけど、頰が赤く染まっていたのは見間違いじゃあない。
きっと、私も同じ顔をしているに違いない。
その夜、腕が綺麗に完治していることに気付いた私は、半分パニックになりつつも仗助くんにちゃんとお礼を言っていないことを思い出した。
どういうことなのかはさっぱり分からないけれど、明日会えたら、ありがとうって伝えよう。
…ちゃんと、顔を見て言えるかしら。
今朝までちっともこんな心配をしたことなんて無かったのに、意識すると途端に難しくなる。
仗助くんと、私。
また少し、関係が変わっていく予感がした。