第3章 青い春と漫画家【4部 仗助(露伴)】
願いを叶えてやる、と言った側の露伴はてっきり彼女に『勉強ができるようになる』だとか『男子からモテる』等と書き込むことになるだろうと予想していたのだが、大きく外れた。
まさか"読まれる"方をお願いされるとはな。
結局、例のお守りは本にした彼女の82ページ目に『勉強机の引き出しの1番奥にしまい込んだ』と書かれていたので、この後帰宅した千尋はすぐに見つけ出すだろう。
大切にしすぎた結果どこにやったか忘れてしまうとは、何とも彼女らしい。
「ああところで、お守りの記述を探してる間にもうひとつ面白い情報が見つかったよ」
「えっ?」
突然の言葉にきょとんとする千尋に、にやりと笑みを浮かべた露伴がすかさず耳打ちした。
「"私は 東方仗助が 好きだ"」
「────!!!」
途端、ぼっと音がしそうな程に彼女の頰が真っ赤に染まる。
「いやあ、僕も読む気は無かったんだがねェ、なかなかお守りについて書かれてるページが見つからなかったんで、色々探していたらね…くっくっくっ…」
己へのフォローを入れつつも、漫画家先生はもう面白くて仕方がないといった様子だ。
迂闊だった。探し物で頭がいっぱいでちっとも思い至らなかったが、考えてみれば自分のやった事は、あの岸辺露伴に自ら進んで秘密を見せつけたのと同じではないか。
後悔先に立たずとはまさにこの事で、あまりの事態に顔から火が出そうな千尋はもう涙目だ。
「安心してくれ、別に誰にも言いふらしたりしないよ。フフ…しかし、東方仗助ねえ……君、いい子だと思うが、あまり趣味は良くないな」
「せッ…せ、先生に言われたくありませんッ!!!」
震えてしまって何の迫力も無い声でそう言い返すのが、今の彼女にできる精一杯の反撃だった。
翌日、すっかり勘違いした仗助と、挙動の落ち着かない千尋が全く噛み合わない会話を繰り広げ、億泰と康一は非常に戸惑う事になるのだが────それはまた別のお話。
END