第1章 宵闇マリーゴールド【2部 シーザー】
ジョセフ・ジョースターがこの館にやってきたのは、それからしばらくした頃だった。
最初はいい加減でいけ好かないヤツだと思っていたが……柱の男達と戦い、ここで共に修行していくうちに、だんだんとあいつの良さが分かってきた。
それはチヒロにとっても同じだったようで、ジョジョの明るい性格も相まってか、最近ではすっかり打ち解けている。
この前は彼女が呼吸法矯正マスクを懐かしいとからかったものだから、アイツはずいぶん悔しがっていたな。
ジョジョ…ヤツには、人の心を掴む何かがあるようだ。
ある夜。
連日の修行で普段なら倒れるように眠ってしまうのだが、今日に限って何故か寝つけなかったおれは、ベッドから抜け出して部屋を出た。
何とは無しに談話室へ足を向けると、無人のはずの室内に小さく灯りが付いている。扉の隙間からそっと覗き込むと、居たのはチヒロだった。
ソファに深く腰掛け、大きな窓の外に浮かぶ月を眺めている。頰に落ちる月明かりが彼女を恐ろしいくらいに美しく見せて、ぞくりとした。
「…チヒロ」
「!………シーザー」
そっと声をかけると、彼女は驚いて振り返った。
「なんだか、眠れなくて。あなたも起きてたの?」
「ああ…まあな」
「…よかったら、一緒に飲む?」
チヒロがゆるりと持ち上げる手元には、ワイングラス。
明日の修行に差し支えるかも、という考えが一瞬頭を掠めたが、彼女に誘われて乗らないという選択肢はない。
この偶然も何かの縁だと自分を納得させて、お言葉に甘えることにした。