第3章 青い春と漫画家【4部 仗助(露伴)】
「おかげで随分助かったよ。何度もすまなかったね」
露伴にそう労われて、千尋は驚きに目を丸くした。
この偏屈で我儘で自己中心的な──さして付き合いの長くない自分にも分かる程の──漫画家先生から、こんな言葉をかけられるなんて思ってもみなかった。
「いえ、お役に立てたんなら良かったです。あの"ピンクダークの少年"の執筆に協力できるなんてワクワクしましたし!」
これは本音だ。知り合う以前から彼の漫画のファンでもある彼女の素直な気持ちだった。
「でもまさか、露伴先生から頼み事をされるなんて思ってもみませんでした」
「千尋くん、しばらく学校帰りに僕の"デッサンモデル"になってくれないか?」
彼女が岸辺露伴からそう"協力"を依頼されたのは1週間程前のこと。
予想外の出来事に、最初は正直面食らった。
デッサンモデルというと、つまり絵のモデルになってくれということか。
もちろん今までそんな経験は無い。ただでさえ気恥ずかしい上に、露伴は年齢も数歳離れているだけの若い男性だ。
まさか彼に限って女子高校生に下心などは無いだろうが、それでも1人で家に上がり込むのは気が引ける。
申し訳ないが断ろうか…と頭の中で考えた時、察したらしい依頼主はダメ押しに一言付け加えた。
「もちろんお礼はするよ。そうだな…引き受けてくれたら、僕のヘブンズ・ドアーで何でもひとつ願いを叶えてやるからさ」
「えッ!ほ、ホントですか!?」
聞いた途端に目の色が変わった千尋を見て、露伴はそれじゃ、明日から頼むよと口角を上げたのだった。