第3章 青い春と漫画家【4部 仗助(露伴)】
少々不安を抱えつつも実際に露伴のデッサンモデルになってみて、千尋が感じたのは"面白さ"それに"楽しさ"だった。
じっと見られてスケッチされるという事には恥ずかしさや疲労もあったが、目の前で露伴の華麗な筆さばきを見ることができたし、鬼気迫る作画風景も何度か見学させてくれた。
自分の好きな漫画が今まさに創り上げられていく瞬間に立ち会えるのは感激するし、ファンとしてとても光栄な事だ。
それに何より、世界的に有名な漫画家の手伝いをしているというのは誇らしいものであった。
たまに露伴の気が向けば紅茶を出してくれる事もあり、最初の心配はどこへやら、平和に1週間が過ぎていった。
「でも、どうして私だったんです?」
これまた驚く事に、玄関先まで見送りに出てきてくれた先生に千尋は尋ねた。
「勿論、リアリティの為だよ。"実際の"女子高校生が、"実際の"制服を着ているところを描かせて欲しかったんだ。僕には他に女子高生の知り合いなんていないしな」
「それなら、由花子さんの方がモデルとしても綺麗でいいような気がしますけど」
「馬鹿言えよ、あの山岸由花子に頭下げて頼めって?絶対ごめんだね」
口をへの字にしてフンと鼻を鳴らす様に、思わず笑ってしまう。
「そうかなあ、由花子さん、良いところもいっぱいあるんですよ」
「それに、今回君にモデルになってもらったキャラクターは"ごくごく普通の庶民的な女子高生"って設定なんだ。だから千尋くんの方が適任なんだよ」
「…ちょっと、それどういう意味ですか」
最初はなかなかに緊張していたものの、1週間共に過ごすうちにこんな軽口を言い合えるくらいにはなった。喜んでいいのかどうかはよく分からないが。
「しかしなあ君、この僕にヘブンズ・ドアーで探し物させるなんて前代未聞だぜ」
彼女を横目に見やり、半ば呆れ顔の露伴が言う。
視線の先のこの女子高生は、先程報酬の"お願い"を、なんと失くしたものを探す為に使ったのだ。
「だって、どうしても見つけたかったんですもん!探してもらったお守り、亡くなったおじいちゃんがくれたもので…ずっと大事にしてたんです」
「そんな大切なモンを失くすかね、普通」
「うッ……そ…それを言われると、返す言葉もございません………」