第14章 Orecchini【アバッキオ】
「おい」
「きゃああッ!?」
背後から突然聞こえた声に思わず叫ぶ。
振り返ると、椅子の後ろで目を剥いているのは昨日と同じ彼だった。
「ア…アバッキオ……」
「───ッ、いきなり大声出すんじゃあねえ!」
寝起きで完全に気が抜けていたからか、自分でも驚くほどの声が出てしまった。ごめんなさい、びっくりしちゃってと素直に謝るチヒロを見つめながら、アバッキオはため息をつく。
「また寝ずに作業でもしてたのかよ?」
「まぁ…ちょっとね。アバッキオはどうしたの?こんな時間に」
「…あァ〜………その、なんだ、………ほらよ」
「えっ?」
チヒロは徹夜の事を何か言われるかと思い話題を変えたのだが、彼は予想に反して握った右手を差し出した。
訳も分からぬまま受け取るために両手を出すと、そっと掌に置かれたのは……昨日無くしたピアスの片方だった。
「え、こ…これ…!」
「大方それだろ、昨日の妙な態度の原因はよォ」
「で、でも、どうやって」
そこまで言って思い至った。
そうだ、彼のスタンド、ムーディー・ブルースの能力は───
「もしかして…"再生(リプレイ)"で探してくれたの?」
「………」
決まりが悪そうに視線を逸らしているが、この無言は肯定だ。
『再生』───対象の人物に起こった過去の出来事を、録画したビデオのように"再生して見る"事ができる、彼だけの能力。
アバッキオは昨日チヒロが出て行った後、彼女を再生して確かめたのだ……落ち込んでいる理由を。
勝手に"見る"のもどうかと思ったが、と彼は小声で呟いた。
「…お前の様子がどうも変だったんでな」
「ううん、嬉しい。ありがとう…アバッキオ」
大切そうに胸元でピアスを握りしめる彼女を見て、アバッキオは片眉を上げる。
「それにしても…お前ピアスはいくつも持ってるだろ。何か特別なのか?それ」
「えッ?そ、それは…」
「……あ」
尋ねておきながら、彼も思い出したらしい。