第14章 Orecchini【アバッキオ】
「お前………」
眉間に皺を寄せて、アバッキオがチヒロを見つめる。どうやら持ち前の高い洞察力で、すっかり分かってしまったらしい。
こんなにもこのピアスに拘る理由も……彼女の気持ちも。
が、察したからといってもさすがに口に出せはしない様子で、目線を逸らして黙り込む。
気のせいだろうか、少し頬が赤い。
それに気づいたチヒロは、正反対にじっと彼を見つめた。鼓動が速い。
「何だよ」
彼女には分かる。
このしかめっ面は、実は照れ隠し。
貴方が本当は面倒見が良いことも、優しいことも、ちゃんと知っている。
不機嫌そうに寄せられた眉根さえ愛おしい。
知らず知らずのうちにふふ、と笑みが溢れた。
想いがどんどん膨らんでいくのが自分で分かる。
何笑ってんだ、と憮然とする彼にごめんごめん、と謝りながら、その決意は突然やってきた。
ああもう、言ってしまおうか。
ずっとずっと言えなかった、けれど1番伝えたい言葉を、今なら素直に言える気がする。
「…とにかく、もう無くすんじゃあねえぞ。」
決まりが悪そうに玄関へ向かって歩き出す、その背中に投げかける。
「アバッキオ、────好きよ」
振り向いた彼の表情に、チヒロも頬を染めて微笑んだ。
END