第11章 Ubriacone【護チ】
「おいチヒロ…いい加減にしな、酔いすぎだ」
ミスタにくっついていた彼女の腕を掴んだアバッキオが、その身体をグイと自分の方へ引き寄せた。
えぇ〜、そんな事ないわよォと笑っている様子は随分と呑気なものだが、遮って続ける。
「いいからさっさと仮眠室へ行け。…歩けるか?」
泥酔しているチヒロの足元は覚束ない。支えてやるつもりで掴んだ腕に力を入れたものの、彼女は逆によろめいて、彼の胸に手をついた。
慌てて空いた片手でふらつく身体を受け止めれば、期せずして抱き合う形になってしまった。
もちろん彼はすぐに離れようとしたのだが、
「んん〜〜…アバッキオ……」
甘い声を漏らし、チヒロはそのまま彼の背にするりと腕をまわして抱擁した。
襟が大きく開いた胸元にぺたりと頬をすり寄せ、それは嬉しそうに微笑んでいる。
「──ッ……おい!何やってんだ、コラ」
しかめ面で彼女を叱るアバッキオだが、実際のところ満更でもないのは誰の目にも明らかだった。
チーム内でも1番無口で取り付きにくい雰囲気を放っている彼が、普段から親しく接して笑顔を見せる女性はチヒロだけだ。彼にとってもまた、彼女は特別なのである。
というか本当に怒っているならば、無理にでも引き剥がす筈だ。
そんな事情を知ってか知らずか、チヒロはぽわんとした目で彼を見上げて言った。
「アバッキオって、ほんとに優しいのねェ」
「あァ?」
「いつも、あんまり喋らないけど〜…その分周りを見てくれてて、サラっと助けてくれたり、気にかけてくれたりするものォ。
今だって私の事、心配してくれたんでしょう?」
ありがとう、と微笑む彼女の頬は桃色に染まっている。もちろん酔いのせいなのだろうが、この状況では非常に──男を煽るものがある。
アバッキオは咄嗟に目を逸らしてチッと舌打ちしたが、どう見ても照れ隠しである。
「大好きよ、アバッキオ」
「〜〜〜〜ッ…!」
更に畳み掛けられて、これでは流石に彼の理性も限界を迎えそうだ。それでなくても胸の中の彼女の温かさ、柔らかさ、潤んだ瞳に、どうしようもなく愛おしい気持ちが溢れてくるというのに。
ああ、もうこのまま、彼女を抱きしめてしまおうか。
腕を伸ばしかけたその時だった。