第11章 Ubriacone【護チ】
「おいおいおい!チヒロよォ〜、ちょーっとズリいんじゃあねえのか?ナランチャやフーゴばっかりイイ思いしてよォ」
横抱きにチヒロを抱えたミスタは、そのままグイと彼女に顔を近づける。
「なあ〜ッ、当然、このオレにも何かあるよな?言いてえ事が」
だが、意外にもチヒロは彼をジトっと睨みつけた。
「もう〜ッ…何するのよォ!ミスタはいっつもこうやってふざけて!ビックリしたじゃあないの!」
更には離してよ、とジタバタ暴れだす始末。
彼としては「もちろんよ!ミスタ大好き♡」という言葉と共にキスのひとつでも貰えるのを期待していたのだが、予想外の反応に困惑する。
「お、おいッ!暴れんなって!わかった、わかったよッ、下ろせばいいんだろ!下ろせばッ!」
酔った彼女を気遣った様子でそうっと床へ立たせると、ため息をついて背を向けた。
「ちぇ〜〜〜〜っ…何だよ、オレの事はそんな風に思ってたのかよ……」
悪かったな、どーせオレはふざけてばっかりですよ、とブツブツ言っている彼だが、がっくりと肩を落として明らかに落ち込んでいる。
すると今度は、それに気づいたチヒロの様子が変わった。
「あッ、ち、違うの!ごめんなさい、言いすぎちゃった…」
言いながら慌てて彼に駆け寄る。
「あのね、ミスタの楽しいところにはね、いつもとっても助けられてるの。ミスタが居てくれるだけでその場が明るくなるっていうか…すごく、心が軽くなるの。
私ね、そういうミスタが大好きなの」
ごめんなさい、許してくれる?
そう上目遣いに見つめられて、不機嫌を貫ける男がいるだろうか?
一も二もなく彼はいつもの調子を取り戻した。
…若干鼻の下が伸びているように見受けられるのは、チヒロがぎゅっと抱きついている彼の左腕が、彼女の胸元に埋もれる形になっているからに違いない。
そーゆー事なら早く言えよな、と頭を撫でてやると、ぱあっと嬉しそうな笑顔になる彼女のなんと可愛らしいことか。
堪らず抱き寄せようとした───…のだが、それは叶わなかった。