第11章 Ubriacone【護チ】
「…とにかく、このままにはしておけないな。とりあえず声はかけてみるが…チヒロがこのまま眠ってしまうようなら、ベッドに寝かせてやろう」
ブチャラティの発案に皆頷いた。
その中からナランチャがひょいと歩み寄り、彼女の肩を揺すって声をかける。
「おいチヒロ、大丈夫かよォ〜ッ?」
「んン…?」
虚な目をしていた彼女はゆらり、と頭を上げて何度か瞬きし、目の前にしゃがみ込む彼を見た。
そして、
「ああ〜ッ!ナランチャだぁ〜!!」
底抜けに嬉しそうな声を出したかと思うと、むぎゅう!と思いきり彼を抱きしめた。
「なッ!?な、何だよチヒロッ!!?バカ、離せって…!!!」
突然柔らかな胸元に顔を突っ込む形になったナランチャは真っ赤になって慌てているが、拘束は緩む気配がない。上機嫌なチヒロは楽しそうに抱えた頭を撫で回している。
「うふふ、ナランチャ、かわいいかわいい〜!私、ナランチャだぁ〜い好き♡」
「え…ッ!」
こんな状況でありながらも、ナランチャは"大好き"という単語に思わず反応してしまう。
だッ、大好き、って、どういう…!?
一気に心臓が高鳴るのが分かる。
そんな事には全く気付いていない様子で、チヒロは続けた。
「ナランチャはねェ〜、かわいくって、いつも一生懸命で、真っ直ぐで、私すごいなあ〜って思うの。ほんとよォ」
だから今日はいーっぱい褒めてあげる、よしよしと優しく撫でられて、彼の全身はかっと熱くなる。
"かわいい"というのは多少引っかかるが、密かに想いを寄せていた彼女がそんな風に思ってくれていたなんて。
そしてその上この状況。
──す……すっげェ、嬉しい………ッ!
これだけ酒に酔った状態で出る言葉だから、これは普段秘めている彼女の本音なのだろう。
元々の性格が落ち着いているという事もあるが、日本人であるチヒロはイタリアの女性と比べるとやはり控えめだし、年齢もチーム内では上の方なので、こんなにあけすけに話をしてくることは少ないのだ。
嬉しい。
もっともっと、チヒロの本音を聞きたい。
だがそれは、突然の事態に呆気にとられていた他のメンバー達にとっても同様であった。