第11章 Ubriacone【護チ】
ああ、ムシャクシャする。
我慢ならない、イライラする、腹が立つ。
チヒロの精神状態は今、誰がどう見ても最悪であった。
くそ、くそ、ちくしょう。
何故こんなに苛立っているかって?
……いやだ、思い出すだけでも腸が煮え繰り返りそう。
この気分をどうにか燃やし尽くして、消化してしまいたい。意味もなく部屋の中を歩き回る。
バン、と扉を閉める音がいつもより強く響く。
無意識にモノに当たっている事に気付いて、そんな自分へ更に嫌悪が募った。
ああああッ!もう嫌!何も考えたくない!
こうなったら酒だ。
こんなに棘だらけになった心を落ち着かせるには、もう酒の力を借りるしかない。
飲んで飲んで飲んで、この感情まで流してしまえ。
まだ栓の開いていないワインの瓶をむんずと掴んだ彼女は、このアジトで1番大きなソファにどっかと陣取った。
「……これは一体、どうした事だ」
アジトに足を踏み入れたブチャラティは思わず呟いた。後ろに続く他のメンバー達も、戸惑いを隠せない様子だ。
目の前には真っ赤な顔でソファ前のローテーブルに突っ伏すチヒロの姿。
床には空のワイン瓶が転がり、彼女の不自然なまでに上がった口角からは「うふ、あはは」と不気味な程楽しそうな声が漏れている。
「…彼女に限ってまさかとは思いますが…"ヤケ酒"ってヤツじゃあないでしょうね」
「そのまさかだろうな」
ジョルノの言葉に被せるようにしてアバッキオが言った。
「どーー考えても何かあったな」
「ああ…」
今の彼女の姿には、普段の落ち着きや穏やかさなど見る影もない。
細かい事情は分からぬものの、ミスタとフーゴも何となく経緯を察したらしい。