第10章 fallita【ブチャラティ】
「──────ブチャラ、ティ」
立っていたのは、いつでも1番側にいたくて、今最も会いたくなかった、その人だった。
走り回って私を探してくれたのだろうか、肩で息をしている。
「病室に居ないから、もしかしてまた別のスタンド使いに襲われているんじゃあないかと──…無事で、良かった」
小さく笑みを浮かべた彼に、私は絶望の色を深くする。
「なぜ1人で動き回った?…傷は、大丈夫なのか?」
しゃがんで私と目線を合わせたブチャラティは、心配そうにこちらを覗き込んだ。
そっと肩に添えられる手に、思わずビクリと反応してしまう。
「……チヒロ?」
「あ……あ、」
声が出ない。
どくどく、と血液が逆流しているような感覚。沸騰するように熱いのに、手足は氷みたいに冷えきっている。
謝るのよ。失態を犯して申し訳ありませんって言うのよ。
停止しそうな脳を必死に動かす。
ああ、ブチャラティが驚いているじゃない。
話すのよ、声を出せ。
「き、きらいに、ならない、で」
「…えっ?」
必死に絞り出した一言は、自分でも嫌になるくらいに情けないものだった。
「ごめんなさい、ごめんなさい、私のせいで、迷惑をかけて、ごめん、なさい」
「…チヒロ」
「ミ、ミスタが居てくれなかったら、任務失敗だった…ッ!上からのブチャラティへの信頼まで私、傷つけた…!」
さっきまで上手く声も出せなかったのに、今度は言葉が止まらない。知らず知らずのうちに嗚咽が漏れる。
ああだめ、だめ、泣くな。さっきは我慢できたのに、今日は涙腺が馬鹿になっている。
「ごめんなさい、私、私ブチャラティの役に立ちたいのに、役に立てなきゃ側にいる資格なんて無いのに、私、ごめんなさい…!」
ぼろぼろ涙を流す情けない姿を、ブチャラティは黙って見つめている。自分でももう何を喋っているのかわからない。
ごめんなさい。役に立たなくてごめんなさい。
こんな振る舞いギャング失格だわ。
でも側にいたいの。貴方の側にいたいの。ブチャラティに嫌われてしまったら私、生きていけない。