第10章 fallita【ブチャラティ】
「チヒロ」
ブチャラティの両掌がそっと私の頬を包んだ。
驚いて見上げると、するりと近づく彼の顔。そのまま唇に柔らかなものが触れた。何が何だか理解できなくて、私はただただ涙を零し続けている。
「チヒロ、オレ達は"チーム"だ。任務の最中には当然不測の事態も起こる。今回、確かにお前はミスを犯したかもしれない。だが…それはミスタがしっかりとフォローしたんだ。お前達2人が"協力して成し遂げた"。
任務は完了し、お前もミスタも無事に戻った。それが何より1番大切な事だ…違うか?」
「で…でも、」
「それから…オレは、"お前が役に立つから側に置こう"だなんて、ただの1度も思った事は無い。"お前だから"……側にいて欲しいんだ」
優しい手つきで、だけどしっかりと抱きしめられて、やっと分かった。
彼が何を言ったのか。さっきのキスの意味が。
「ブチャラティ、私、私…」
今までとは違った涙が頬を滑り落ちる。
私の頭の後ろで、こんな形で伝えるつもりじゃあなかったんだが、と苦笑する声が聞こえた。
「好きだ。側にいてくれ、チヒロ」
信じられない。夢みたい、いや、夢だったらどうしよう。
どうか現実であってと願いながら、私はひたすらに何度も頷いた。
恐る恐る抱き返した背中は広く、温かい。
ずっとずっと、貴方の側にいるわ。
彼の肩に染みが広がっていくのを申し訳なく思ったけれど……まだしばらく、涙は止められそうになかった。
END