第10章 fallita【ブチャラティ】
はあ、はあ、はあ。
少し動いただけで息が上がる。
腹の傷がジクジクと痛むが、構っていられない。壁に身体を引きずるようにして院内の廊下を進む。
踏みつける床が冷たくて、気づくと、足に何も履いていなかった。
頭の隅にいる冷静な自分が、何やってるのよ私、と自嘲している。
ブチャラティはわざわざ私を見舞いに来てくれたのに。リーダーに事の顛末を報告しなくてはならないのに。自分の口で、謝罪をするべきなのに。
病室に戻るのよ、戻らなくちゃあ。
そう思うのに、身体は前に進み続ける。
怖い、怖い怖い。
手が、脚が、馬鹿みたいにガタガタ震えている。
どこをどう歩いたのか全くわからない。いつの間にか、私は人気のない通路に辿り着いていた。
「う、う……ッ!」
痛みが限界になって、その場にうずくまる。
───ああ、馬鹿みたい、ほんとに。
聞き分けのない子供じゃあないんだから。
自分で自分に呆れた、その時。
「チヒロ!!!」
通路に響いた声。
出会ってからずっとずっと聞いてきた、その声。
私は、ひどく緩慢な動作で振り返った。