第9章 prego【ナランチャ】
「うぅ〜…!こ、怖かった…!!!」
バタバタとチヒロがバスルームから戻ってくる。
女性にしては随分早かったので、余程急いだのだろう。短時間だろうととにかく1人になりたくないらしい。
彼女がソファに腰掛けるのと反対に、ナランチャは立ち上がる。
「そんじゃオレも、シャワー浴びてくっかなァ」
「ええ。…あの、ほんとに申し訳ないんだけど…なるべく、早く帰ってきてね」
「わ〜かったって」
バスルームに向かう彼の背中を見送りながら、チヒロは"ナランチャが女の子だったら、一緒にお風呂にも入ってってお願いしたんだけど"という一言を飲み込んだ。
熱いシャワーを思いきり頭から浴びる。
この雑念まで洗い流してしまおうと、彼は必死だ。
落ち着け、落ち着け。
うん大丈夫だ、何ともない。
別にチヒロの濡れた髪とか、ふんわり桃色になった肌とか、全然、全く、気にしてない。
バスルームから出たら、後はさっさと眠ってしまえばすぐ朝になる。
──しかし、待ち構えていたのは、そんな思惑とは正反対の展開だった。