第9章 prego【ナランチャ】
さァ〜て、帰って明日に備えるかあ。
他のメンバーに続いて玄関を出ようとしたナランチャの右腕を、ガシッとチヒロが掴んだ。
「ナランチャ、お願い…!一度帰るふりして出ていって、その後戻ってきて……!」
「え?」
「しッ!皆にはバレないように!お願い…!!!」
小声だが、あまりに必死の形相でそう言うものだから、その気迫に押され気味につい了承してしまった。
数分後。
言われた通りある程度の所まで歩いていった彼は、皆がそれぞれの家路につくのを確認してからそっとアジトに引き返した。
再び玄関扉を開けると、そこには丁度自分と同じようにして戻ってきたらしい彼女の姿があった。
「チヒロ、何の用だよ〜ッ、一体?」
ナランチャが問いかけると、チヒロはくるりと振り返った。その顔の上で、眉尻が情けなく八の字に下がっている。
そのまま彼女は、先の言葉をまた繰り返した。
「えっと…お、驚かないで聞いて欲しいんだけど、その……ナランチャに、お願いがあって」
「"お願い"?」
「ええ、あの…あのね、ナランチャ。……今晩、私と一緒に…アジトに泊まってくれない?」
「──は…はあッ!!?」
あまりに予想外の"お願い"に一瞬フリーズしてしまったナランチャだったが、我に返って大声を上げた。
彼女は自分で言っている意味が分かっているのだろうか?
いやだって、年頃の男女が2人きりで、ひとつ屋根の下で夜を過ごすという事は、つまりそういうアレである訳で………
頭の中で一度に色んな事がぐるぐる渦巻く。
そんな彼の考えに全く気づいていない様子で、チヒロは言い訳を並べ始めた。