第9章 prego【ナランチャ】
「おッ、なんだなんだ〜?カワイイチヒロちゃんはもう怖くってしょうがないって感じかァ?オレが今晩一緒に風呂入ってやろーか?」
どう声をかけたものかとナランチャが考え込む間も無く、デリカシーの欠片も見当たらない軽口がミスタから飛び出した。
普段はしっかり者の彼女が珍しく怯えているのが面白くて仕方ないらしく、ニヤニヤと視線を送っている。
「そっ…そんなワケないでしょ!ホラー映画にビクついててギャングなんかやってられないわよッ!」
口では強気に反論するチヒロだが、よくよく見ると瞳にうっすらと涙が浮かんでいるような……
───おいおい、ホント大丈夫かぁ?
ナランチャは思わず心配になる。
彼女がここまで狼狽えるというのは、それほど滅多にない事なのだ。
ミスタがからかうのを辞めないので怒っているようだが、何というか、怒る事で恐怖を吹き飛ばそうとしている…ようにも見える。
何か助け船を出してやるべきかと考えていた所にかかったのは、リーダーの声。
「さて…それではお前達、今日はこの辺りで解散だ。明日からはまた通常通り任務に当たるから、そのつもりでな」
ブチャラティの一言で皆ぞろぞろと立ち上がり、これにて本日の会はお開きとなった。