第7章 Saluto【ジョルノ】
理解が追いつかず、目を見開く。
今、ぎゅう、とジョルノに抱きしめられている。
必然的に彼の肩口に顔を埋める形になり、衣服から、肌から、ふわりと香ってくる甘い匂い。
嫌でも顔が熱くなるのが分かった。
「…チヒロ…」
耳元で囁かれ、ばくばくと鼓動する心臓はもう限界を超えて止まってしまうんじゃあないかと思う。
何?どうして?なんで?
あまりに予想外の事態にパニックになっている彼女の思考はショートしかかっている。
ジョルノはそんなチヒロの様子を横目に見て、軽く身体を離した。その面差しには意地悪な笑みが浮かんでいる。
「どうしたんです?チヒロ。ただの挨拶ですよ」
「な…な、」
「そしてこれも…"挨拶"です」
彼女が何も反応できずにいるうちに、ジョルノは再びその身体をかき抱き───ちゅ、と音を立てて頰に口づけた。
「───────!!!!!」
今度こそ真っ赤になって固まってしまったチヒロの姿に、彼はますます笑みを深くする。
「貴女にはとてもお世話になってますからね。これは感謝と親愛を込めた挨拶ですよ」
「あ、あいさつ、って」
「何をそんなに驚いてるんです?僕はイタリアーノなんですから、このくらい普通でしょう?」
いくらイタリア人でも、誰彼構わずこんな風に"挨拶"するなんて見たことがない。
これは…これは、明らかに恋人にするような振る舞いだ。
せめて「嘘つき」だとか「意地悪」くらいは言い返してやりたいのだが、頭が真っ白な上に身体は沸騰したように熱くて何も言葉が出てこない。
自分の発言を完全に逆手に取られ、意趣返しをされてしまった。
それじゃ、僕は報告事項をまとめてしまいます、と余裕たっぷりに別室へと歩いていく彼の背中を呆然と見送りながら、チヒロは力なくすぐ後ろの壁に背中を預け…そのままずるずる、と崩れ落ちた。
年上の威厳を取り戻すつもりだった彼女は、見事なまでにジョルノに完敗したのであった。