第7章 Saluto【ジョルノ】
「戻りました。……おや、チヒロ、1人なんですか」
タイミングがいいのか悪いのか、アジトに現れたのはジョルノであった。
他のメンバーが別の任務で出払っているのを知らなかった様子で、軽く辺りを見回している。
「ええ。ブチャラティ達はさっき出て行ったわ。私はここで待機ってわけ」
そうでしたか、と言いながらジョルノは目の前の椅子に腰掛けて、彼女をじっと見た。
「……今日は、普通に喋ってくれるんですね?」
悪戯に上げられた口角に、またどきんと心臓が音を立てそうになる。
いけないいけない、落ち着くのよ、私。
後輩にやられてばかりでは古株の立場が無いと、少し強がりを口にする。
「別に、今までも普段通りだったけど…年上をからかうもんじゃあありません」
「……"からかう"?」
「そりゃあ、ジョルノも皆もイタリア育ちでああいう事には慣れてるのかもしれないけど、私は何年か前までは日本に居たんだから。本当に驚いたのよ、突然あんな事言われて」
恥ずかしさから彼と向き合っているのが辛くなり、飲み物でも持ってこようと立ち上がる。
「つまり、その、私が言いたいのは、感覚が違うって事よ。例えば挨拶でハグしたり、キスしたり、そういう文化で育ってないもの。ええと、だから──…」
「つまり」
自分のすぐ後ろからジョルノの声がして、危うくボトルを取り落としそうになる。
咄嗟に振り返ると、彼はあの時と同じくすぐ側に立っていた。
「チヒロ、貴女が言いたいのは…"僕が挨拶でハグやキスをするイタリアーノだから、この前のような事を誰にでもやったっておかしくない"という事ですか」
「そ、れは、その…あの、そう…と、いうか………」
しまった、怒らせてしまっただろうか。
馬鹿にしたつもりは全くなかったが、気に障る言い方をしてしまったかもしれない。
鋭い瞳に射抜かれ、先程までもう大丈夫と思っていたのが嘘のように狼狽える。
どうしよう、どうすれば。
とてもじゃあないがジョルノと視線を合わせていられない。
堪らず俯いてしまったチヒロだったが、今度は唐突に、温かい感触に包まれた。
「───えっ?」