第7章 Saluto【ジョルノ】
はあ。
またひとつ、溜め息が溢れる。
ふと、テーブルについた肘のすぐ横のテレビリモコンが目に入った。何の気なしに電源ボタンを押すと、ずいぶんと古そうなドラマの再放送が流れ始める。
画面の中では整った顔立ちのイタリア人男性が、出会ったばかりの美しい女性を言葉巧みに口説いているようだ。
この国の男達って、これが当たり前だって言うんだから驚きだわ。
ぼうっと眺めていたチヒロだが、突然はたと思い至った。
そうだ、自分がされたのはもしかして、これと同じような事なのでは?
考えてみれば、ジョルノだって立派なイタリアーノなのだ。
挨拶がわりに女性を褒めたり、口説いたり────時にはからかってみたりする事だって、あるかもしれない。
今回はたまたまその対象が自分だったというだけで。
うん、きっとそうだわ。そういえば彼、あの時冗談だって言っていたし──…
そう考えると、途端に意識しすぎていた自分が恥ずかしくなってきた。
彼がジョークでやった事で、ひとりこんなにドギマギしていたなんて。
もうイタリア暮らしも長いというのに…ああ、皆に気づかれる前でよかった。
これでやっとジョルノとも普通にコミュニケーションが取れそうだ。
ほっと胸を撫で下ろしたところに聞こえてきたのは、玄関扉の開く音。