第4章 Pranzo【護チ】
「あ、そうだわ、サラダに入れようと思ってたモッツァレラチーズがこっちに…きゃっ!」
フーゴがため息をつく中、冷蔵庫を開けようとしたチヒロは床板の段差に足を取られて小さく叫ぶ。
危うく転びかけたところを、近くで見ていたアバッキオが抱きとめた。
「おっと、危ねえな。ちゃんと足元見ねーとケガするぜ」
そのままするりと腰に腕を回し、空いた方の手で彼女の指を絡めとる。
「相変わらずそそっかしいな、オメーはよ。やっぱりオレがついててやらないとならねえな」
「ごめんなさい。ありがとう、アバッキオ」
さりげなく身体を引き寄せ、まるで恋人同士のようにぴったりと寄り添う2人に、周りの面子の眉間に皺が寄る。
「チヒロ、あまり放っておくとソースが焦げてしまうぞ」
「あ、いけない」
見兼ねたブチャラティが声をかけた事で、彼女は腕の中からするりと抜けだした。
アバッキオの空いた手が名残惜しそうに握られるのを横目に、チームのリーダーは彼女の隣に歩み寄って微笑みかける。
「以前ボッタルガのスパゲティーをご馳走になった時にも思ったが、やはり手際が良いな。チヒロが作るものは何でも美味くなるんだろう」
「そうかしら、そんなに褒めたって何も出ないわよ」
照れ隠しにそう言いつつもはにかむ表情の、なんと愛おしいことだろう。
さすがに上司相手では文句も言いづらいのか、横のフーゴは不満げな顔をしつつも無言だ。
…いや、それよりも。
「"ボッタルガのスパゲティー"?そんなの作ってもらったことあったか?」
聞き捨てならない単語に、グラスに炭酸水を注いでいたドリンク担当が振り返った。
「ああ、この間ここで2人だった時にな。お前達は出払っていたから知らなかったろうが」
さらりと答えるブチャラティだが、『2人』のところを殊更に強調しているように聞こえたのは気のせいではあるまい。
自分の為だけにチヒロが作ってくれた飯を、2人っきりで食べただってェ…!?
くっ…とミスタの唇が悔しそうに震えた。ジョルノとナランチャも同じ顔をしている。おそらくフーゴとアバッキオもそうに違いない。
やはりブチャラティは手強い、と紅一点を除く全員が確信した瞬間、彼女のにこやかな声が響いた。
「さあ、出来上がりよ。皆座って。食べましょう」