第4章 Pranzo【護チ】
「おッ!トマトソースか。美味そうだな」
3番目に動いたのはミスタ。背後から彼女の肩越しに手元を覗き込む。
頰と頰が触れそうな距離感に、他5名の空気が張り詰めた。
「ええ、トマト缶があったからね、ペンネにするわ。あとはサラダでいいかしら?」
「おお、もちろん。作ってんの見てたら、オレも腹減ってきたぜ」
談笑する2人は、側から見れば新婚夫婦のよう。もちろんこのままにしてはおけないと、今度はフーゴが行動に出る。
「チヒロ、サラダの準備なら僕がやりますよ。
さあミスタ、見てるだけならどいてください、キッチンは狭いんだから」
「本当?ありがとう、フーゴ」
「あ…い、いえ、別にこのくらいの事なら、いくらでも」
自分だけに向けられた、彼女の愛らしい微笑みにくらくらする。
緩む頰を抑えられずにいると、押し退けられて不興顔だったミスタが負けじと彼女に呼びかけた。
「なあチヒロ、一口味見させてくれよ」
「いいわよ。…はい、どうぞ」
「あッ!!」
フーゴは思わず声を上げた。
ミスタが差し出されたスプーンを受け取らずに、そのままぱくりと咥えたからだ。
こ、この野郎……!
ナイフを持つ手にギリ、と力が入る。
「Buono! やっぱりチヒロは料理上手だな」
「ふふ、嬉しい。そうだといいんだけど」
「……ミスタ、どけって言ってるのが分からないのか?」
ぺろりと唇を舐めて楽しそうにしている奴を睨みつける。
右手の刃物が細かく震えているのに気付いて流石にまずいと思ったのか、ミスタは飲み物を準備すると言ってそそくさとテーブルに向かっていった。