第9章 ~明智光秀~ end.
触れるだけの軽いキス……
ほんの一瞬だった。
「なんだ、もっと欲しいのか?」
私の頬を撫でる手が
見つめる目が
凄く優しい。
「だか、その前に聞こうか?なぜいつも、気持ちを隠すような事をしていた。お前は何を知っているんだ?」
脅すような聞き方じゃない。
私の背負っているものを、降ろさせるような聞き方だった。
「詳しい話はしたくないです。だけど……私はこの国の……光秀さんや信長様の築いた後の世の事も知っています……」
本能寺の変……
だけじゃない。他にもたくさんある。
だけど本当に……本当に教科書で習った通りの事が起こるんだろうか……
「それだけでは、ないだろう?」
「……」
私は本当はこんな歴史に名を残すような人達と関わり合えるような人間じゃない。
自分を卑下している訳じゃないけど……
正直、この時代の身分差別は見ているだけで、気分が悪かった……
特に女性に対してなんかは……
「無理には聞かない。だがお前の抱えている物は、俺も一緒に背負ってやろう」
その一言に、涙が溢れた。
「光秀さん……」
お城にいる時間の短い光秀さんは、それでも、いる時には必ず私にも気を配ってくれていた。
意地悪な事を言っても、いつもその目は、優しかった。
だから惹かれたんだろう。
「そんなに泣くと、目が腫れる。今宵の宴は、俺とお前の為の物だ」
「……?私、ですか?」
「……お前、本当に聞いていなかったんだな」
少し呆れたような声で、でも……
「まぁ、それがお前の良いところだ。俺も本当の自分を曝け出すことが出来る」
「あの……それって、褒めてます?」
「くっ、くっ……」
クツクツと笑い出した光秀さんを見ていると、私もなんだか可笑しくなった。
「続きは夜だ。俺の為に何か作ってくれるんだろう?政宗のところまで、送り届けよう」
そう言うとまた、軽いキスをして……
城下にいる政宗のところまで、手を繋いで送ってくれた。