第7章 ~徳川家康~ end.
「ふふ、楽しみにしてるね」
「そう、良かった……」
普段はツンツンしている家康だけど、ふと見せる顔が本当に可愛い。
「じゃあまた後で、きょうこ」
「うん、あ!家康!」
スキップでもしそうな勢いの家康を呼び止めた。
「何?」
でも、振り向く時は、またツンツンに戻るの。
ふふふ……可愛い。
「いつもの……自分で用意してね……」
「わ、わかってる」
あー真っ赤になった!やっぱり可愛いっ!!!おもわず家康の手を握って言った。
「その顔……好き」
「いいよ、そんな事言わなくても……じゃあ、後で。迎えに来る」
「ふふ……楽しみにしてる……から、ね?」
家康は、私の手をキュッと握ると、サッと踵を返して去って行った。
私がそんな家康の背中を見つめていると、今度は後ろから声がかかった。
「ふん、彼奴のあんな腑抜けた顔を見ていると、吐き気がする」
「信長様……」
「まぁ、上手くやっているようだな」
「ふふ、そうですね」
「ふん。そうか……きょうこ……どうだ、今から……」
そう言った信長様が、すっと指を絡めてくる。
「ダメですよ。“家康にしておけ”とおっしゃったのは、信長様ですよ。私、そんなに軽い女じゃないのは知ってますよね?」
「あぁ。だから惜しいことをしたと思っている。貴様が正室でないと嫌だ、と言うから」
「だって、私一人だけの物にしたいじゃないですか」
「物か……彼奴にそんな言い方を出来るのは、貴様だけだきょうこ」
「ありがとうございます」
私はニッコリと笑って言った。
「彼奴はいずれ、日ノ本を治める男だ。確と頼んだぞ」
「まぁ……それは、ゆっくり……頑張ります」
この先の私の知っている未来を、信長様には伝えていない。
なのに、先を読むこの人の目は鋭すぎる。