第7章 ~徳川家康~ end.
仲良くなったお針子仲間から聞いた話。
『家康、人質だったんだってよ』
……現代にいた頃に観た映画風に言ってみた。
もちろん上下関係の厳しいこの時代。
壁に耳あり、障子に目あり。油断大敵。誰の前でも、下々の人間がそんな言い方をしたら、どんな目に合うか……想像するだけでも怖いのに……
現代では、どこにでもいる一般人だった私。
それが何故かここでは、織田家ゆかりの変わり者の姫様と言うことになっている。
てかさ、いーよね!?姫でもなんでも、好きな事して何が悪いんだ!!!
しかも、チマチマと着物を縫うくらい、文句言わないでほしいわ!
……
ま、信長様のおかげで、私は好きなようにさせてもらってるんだけどね。
いや、まぁー話はそれたけど……
家康ね……まぁ、そこそこ仲良くやってるんじゃないかな……
彼の事を『家康』と気軽に呼べる程度には。
「きょうこ」
そんな事を考えていたら、前から家康が歩いてきた。
私は無言でチラリと視線を上げる。
「ねぇ、夕餉……俺の御殿で一緒に……」
少し照れ臭そうに誘ってくる家康を、まだ黙ったままじっと見る。
「何?駄目だったら、無理にとは……」
………………
何度も二人だけで夕餉を食べている。
最初のきっかけは……わさびだったな。
可愛いんだ、家康の飼ってるわさび……
私はやっぱり黙ったままじっと、家康を見る。
「どうしたの?きょうこ……ほら、わさびも、会いたがって……」
「……わさび?」
会いたがってるのは、わさび?
「え……い、いや……俺……かな……」
人嫌いの家康は、恋愛経験が少ない。
と言うか、なかったみたいで、かなり簡単に私に転がされている。
ま、可愛い男は私の好みなんだけど。