第6章 新しい家族
「さてと、寝直すか」
「エルトン、少し手合わせして」
「お前、今のおれの言葉聞いてた?」
朝食の片付けを終え、自分の寝床へ戻ろうとしたエルトンの腕をフレイアは笑顔で掴んだ。引っ張っても取れそうのない手に、思わずエルトンが猫撫で声で周りに救難信号を出す。
「マルコー、この子まだ大人しくしといた方がいいよな?」
「昨日完治祝いをしたのを忘れたとは言わせねェよい」
「ビスター、随分フレイアとの手合わせ楽しみにしてたよな?」
「悪いが、今日はおれのところの隊は交代で見張りだから余裕がない」
「レ」
「僕はこの間の戦闘で破損したところを船大工チームと直さなきゃいけないからパース」
「ジョズ!!」
「……断る」
「せめて何か適当な理由くらいつけて!?」
次々に申し出を断られて、やけになったエルトンが手を引っ張るフレイアを涙目で見る。
(おれは凄く眠い)
必死に想いを込めて目を合わせ続けると、フレイアはこれ以上ない綺麗な笑みを浮かべて口を開いた。
「甲板の修繕が始める前にやっちゃいましょう」
「くそ!!!」
「修繕の時間は決まってないから終わったら声かけてね」
「はーい」
「裏切者ォ!!!」
エルトンの虚しい叫びと、食堂にいた者達の笑い声が船中に響き渡った。
「あーあ、今日は厄日だ。そうに違いない」
「文句ばかり言ってないで構えてよ」
甲板に出ると、見世物のようにクルー達に囲まれ出してエルトンは溜息を吐きながら頭をかく。
「はいはい……にしても、何でおれなわけ?」
白い長刀を軽く手の中で弄びながらエルトンがフレイアに尋ねる。問われた本人は、自分の刀を抜き取って軽く思案すると、少し不機嫌そうな顔をする。
「私がどうしても負けたくない相手に太刀筋が似てるから。勝つための参考になると思って」
「え、おれ剣聖とは似ても似つかないけど」
「お父さんじゃない、よ!」
「おお……!」
喋りながら斬撃を飛ばしたフレイアに少し驚きつつも、エルトンは何事もないように対処する。斬撃の後ろから走りこんできたフレイアと刀を直接交えつつ、彼の頭の中でロジャー海賊団の面々が飛び交っていた。
(おれと似てるやつなんかいたっけ……冥王でもないだろうしなァ……)
「考え事してると殺すわよ」
「怖い怖い」
首を的確に狙った一撃を紙一重で躱して笑った。