第6章 新しい家族
「あああ、ねっむい」
大きな欠伸をしながらエルトンが廊下を歩いていた。
(今日を乗り切れば朝食当番の週が終わる……たっぷり寝てやるからな)
元々早起きは苦手だ。自分が一人サボったところで他の隊員が頑張ってくれるとは思うが、ばれた後が非常に怖いので無視するわけにはいかない。
寝癖が残る頭を掻きながら厨房の扉を開くと、いつも以上に活気あふれる様子に思わず入り口で立ち止まる。
「エルトン、遅いぞ。はいこれ」
「ああ、悪い……これ何事?」
突然押し付けられたボウルの中身をとりあえずかき混ぜながら尋ねると、同じ四番隊所属の男が顎で厨房の中心を指す。それに視線を向けてみれば、小さな背中が次々に指示を飛ばしている姿が目に入って口笛を吹く。
「おお、元気になったね」
「誰より早く来て仕込み始めてたらしいから参るぜ」
「ははは、そりゃ頼もしい」
最初に厨房の手伝いをしていたと言っていたのは嘘ではないらしい。エルトンは笑いながらフレイアに近寄ると、その頭にボウルを乗せた。
「おはよう」
「おはよう。その中身焼いちゃってね」
「手慣れてんなァ……うちの隊、味は美味いけど手際の悪さはトップ独走中だったのに。起きてきた奴等驚くぞ。なにせ用意が出来てたことないから」
「いっそ哀れね」
最初に見た数人の手際の悪さを思い出しながらフレイアは溜息を吐く。
「ま、お前のお蔭でうちもマシになりそうかな。いやァ助かる」
「呑気なもんね」
「寝起きはテンション上がんねェんだよ」
そう言って笑うと、ボウルを持って火のある方へ歩いていく。そんなエルトンを一瞥してフレイアは再び手を動かし始めた。
「おーい、小娘、これはどうしたらいいんだ?」
「それは冷蔵庫に入れて固めてくれればいいわ」
「おい、チビちゃんこれは」
「貴方たち、私の名前知っててやってるなら怒るわよ?」
「え、なんで用意できてるの?」
「……フレイア、お前こき使われたんだろい」
「働いたのは否定しないけど、見てられなくて自分で手を出しただけよ」
驚いている様子のレオーラとマルコに、普段の酷さが表れているというものだ。
(ここにいる間に出来る限りのことはしよう……)
誰にも知られず、フレイアが固く決意した瞬間だった。