第6章 新しい家族
「ねェマルコー」
「なんだい」
夜。医務室で今日買ってきたものを整理していたフレイアは、ふと机に向かって何か書いているマルコに話しかけた。
「エルトンと白ひげの取引内容知ってる?」
「なんだいそれ」
「2人が海賊団に入った時の話をレオーラから聞いたんだけど、何を取引材料にしたのか気になって」
「ああ、あの時の」
ペンを止めて懐かしそうに目を細める。それを見てフレイアが身を乗り出すと、小さく笑いながらマルコは口を開いた。
「なんでもするから助けてくれって土下座したんだよい」
「……それだけ?」
「まァ早口の説明とか色々あったが、簡単に言うと土下座しただけだな。でも、そうそう出来ることじゃねェだろう」
拍子抜けといった顔をするフレイアに向き直ってマルコは言葉を続ける。
「いち船長が敵船の船長に向かって必死になって、自分の仲間の前で土下座なんて出来る奴そうそういねェよい」
「……そうね」
「ま、入って暫くはプライドのねェ男だの言われてたが、頭張ってただけの度胸も力量も器も十分あるから直ぐにそんな悪口消えていったな。落ち着きのなさで手のかかる弟認定されたのもあるが」
「ああ……」
「そこら辺、コントロール出来るのはオヤジかレオーラだけだよい」
普段の様子を思い出して乾いた笑いを浮かべるマルコの前で、フレイアは「そっか」と呟いて再び手を動かし始めた。
「なんだい、エルトンが気になるのか」
ニヤリと笑いながら言うマルコに困ったような顔を返す。
「気になるというか、うーん、どうなんだろ。あの二人見てると船が懐かしくなるような?」
「ホームシックか?」
「かなァ……生まれて初めてオーロ・ジャクソンの皆んなから離れてるから」
ふっと寂しそうな顔をするフレイアの頭を、いつのまにか近づいていたマルコがポンポンと撫でる。
「強がらなくていいよい」
「嫌だ。私は弱いから、少しでも強がってないと負けちゃう。あんまり甘やかさないで」
「強情だねェ」
やっと弱さを吐き出したことに少し喜びながら、彼女の隣に座る。
「お前いくだったか」
「10歳」
「いつから船に乗ってる?」
「生まれた時から」
「……」
「これ言うと皆んな同じ顔する」
一瞬目を丸くしたマルコを見てフレイアはクスクス笑いながら胸元の指輪をそっと握る。