第5章 解けた先に交わるものもある
「これからよろしくね、マルコさん? お兄ちゃんって呼べばいい?」
「マルコでいいよい。ここの連中は皆、さん付けで呼ばれてもむず痒い思いするのがオチだから、呼び捨てにしておくのをおススメするね」
「はーい、お兄ちゃん」
「はァ……反抗期の妹だねェ」
言葉とは裏腹に楽しそうな笑みを浮かべたマルコを見てフレイアも笑う。
「微笑ましいな」
「マルコはロリコンだったのか」
「お前ら、入って来るならさっさとしろい」
医務室の扉を半開きにして覗き込むエルトン、ビスタ。呆れた声を出しながらもエルトンの頭を鷲掴みにして部屋の中に引き入れたマルコに、フレイアはくすくす笑う。
「レオーラは」
「オヤジに報告を、いたた頭蓋割れる!」
「ホォ……こうしていると、どこにでもいる子供にも見える」
興味深げにフレイアの顔を覗き込んだビスタに、フレイアは軽く頭を下げる。
「さっきは刀を貸してくれてありがとうございました」
「いやいや、綺麗な剣筋だった。流石あの男の教え子といったところか」
「ふふ、いつか手合わせ願います」
「勿論」
「あのー、フレイア! ここの命の恩人であるお兄ちゃんを助けてもらえると助か、いててて」
「調子のるんじゃねェ」
ほのぼのと会話するビスタとフレイアの隣で、エルトンが必死にアピールをする。そんな彼の頭を握ったままのマルコは、力を強めた。
「エルトンもありがとうございました」
「当然のことをしたまで、いて! 本当に勘弁してくれ!」
「まったく……で、何の用だい」
離された後も違和感があるのか、しきりに頭をさするエルトンに向けて薬の整理をしながらマルコが尋ねる。その問いへの答えの代わりだと、エルトンはフレイアに向き直った。
「フレイア、食べ物で嫌いなものはあるか?」
「えっと、辛いのは少し苦手かな。でも基本何でも食べる」
「おお、偉い偉い。大きくなれるぞ」
「急に兄貴ぶりやがって」
笑顔で妹の頭を撫で始めたエルトンにビスタが笑うと、マルコも呆れた顔を向ける。
「どうとでも言え! 今日はこいつの歓迎会だ!」
「主役がベッドから出られないんだが」
「完治祝いもするから安心しろ!」
「まったく、調子のいい男だよい」
三人が会話をする中、フレイアは窓の外に視線を向ける。
どこまでも青い海が広がる光景にそっと微笑んだ。