第5章 解けた先に交わるものもある
『若いのがすまなかったな、白ひげ』
「悪くねェよ。ガキがよく生き延びたじゃねェか」
レイリーの姿に変わった電伝虫を見て、白ひげは近くに置いていた専用の椅子に座った。
『ところで、うちのお姫様を拾ってくれたという話だが』
「ああ、たまたま停泊してた無人島に流れ着いててな。知らねェ仲じゃねェから今船で寝かせてある。命に別状はねェよ」
『そうか……恩に着る』
「ところで、この小娘はどうしたらいいんだ?」
白ひげの視線が、ベッドで眠っているフレイアに向けられる。血の気を失って青白い肌は、白ひげが何度か戦闘中にみた姿とは真逆で酷く弱弱しかった。
『迎えに行きたいところだが……生憎、まだ海軍と追いかけっこ中で、あ、おい』
『悪いが、代われ』
突然電伝虫のようすが変わって、その部屋にいた全員が怪訝な顔をすると、小声で問答した後、レイリーではない男の声が聞こえてきた。
『うちの娘が世話になってるらしいな。まず礼を言う』
「ハ、そんなもん貰っても仕方ねェよ。どうするんだファイ……お前が迎えに来るか?」
『そのことなんだが……迎えに行く余裕はないから預かってもらえないか?』
「な」
「……」
一方的な申し出にマルコとエルトンが目を見開く隣で、白ひげは努めて落ち着いた声を出す。
「どういうことだ? 別にこっちは今すぐこの小娘を海に放り出してもいいんだが」
『足手まといになるような鍛え方も育て方もしてねェと誓って言える』
「そういう話じゃねェぞ、小僧」
『……頼む、白ひげ』
苦悩に満ちた、それでいて何か決意したような眼つきに白ひげは暫く考え込むように押し黙った。
「……理由を言え。納得出来たら考えてやる」
『娘を父親の……おれの呪縛から出してやりたい』
あっさりと言い放たれた言葉に虚を突かれたように硬直する。そんな白ひげと向こうの言葉で、マルコとエルトンも目を丸くして電伝虫を見た。
『これ以上手元に置いてたら、成長を阻害しそうで怖い。だから信頼できる男に預けたい。以上だ』
「…………」
白ひげは黙ってフレイアを見下ろすと、次に床に座っている二人にも視線を向けた。きょとんとした顔をする二人を暫くじっと見つめて口を開く。
「いいだろう。ただし、お前の娘が本当に使い物になるかの確認だけはさせてもらうぞ」
『腕はおれのお墨付きだ』
「父親の贔屓目なんか当てになるか」