第1章 見習いトリオ
「大変そうだなァお父さん?」
「余計なお世話だ」
少し離れたところから揶揄うような口調で言うロジャーに吐き捨てるように返事をする。ロジャーの隣ではレイリーがもう見えなくなった背中の方を見ながら笑っている。
「あいつは段々と母親に似てくるな」
「口調だけでも女らしくと思って育ててきたが、あんまり効果なかったよ」
「女らしく育てたかったなら、剣術なんか教えなきゃよかっただろう」
レイリーの正論にファイの瞳に影が落ちた。
「……死なれるよりマシだ。愛した女の忘れ形見だぞ」
一気に瓶の中身を空けながら吐き出された言葉に、レイリーもロジャーもこの船で船医補助をしていた一人の女を思い出していた。
「あいつが一人になっても、自分の運命に負けないように育ててやるのが残された親の仕事だろ」
「大丈夫さ。あの子は強い」
「無駄に強い相手に挑みたがる父親の性格を受け継いでなかったら、もっと安心だったんだがな」
「うるせェ」
否定できない言葉に苦笑しながら、ファイが首から下げた一対の指輪を撫でる。
「マイアの分までしっかり育てるさ。おれには、あいつの能力のことまではしっかり理解出来てないのが痛いけどな」
「海の民の能力か……マイアが死んだ以上、それを知ってる可能性があるのは海軍にいる彼女の父親くらいだが」
「積極的に会いたくねェな」
会う度に向けられる明確な殺意を思い出してファイが苦虫を噛み潰したような顔をみせる。だよなァと同じ男を思い浮かべながらロジャーが笑った。船長であるロジャーには目もくれず、愛娘を攫って行ったファイを殺しにくる男はガープ共々この船との遭遇率が高く、その度に孫娘を見て「母親に似て良かった!」と笑う様子は名物化しつつある。
「目元なんか完璧にファイ譲りだけどな」
「全体的にみるとマイアそっくりだからいいんじゃないか」
「好き勝手言いやがって」
「ま、フレイアの生き方は本人が決めることだ。いくら親だからってそこまで過保護になることはねェだろ」
「それくらい分かってるよ」
「最近反抗期真っ盛りだから寂しいんだろう。まだ会話してもらえるだけマシだと思え。そのうちふらっと男を連れてくるかもしれんぞ」
「縁起でもないこと言うな!!!」
ファイの怒声は食堂の喧騒の中でもひときわ大きく響き渡った。