第5章 解けた先に交わるものもある
渋るエルトンの隣で、フレイアは借りた刀を片手で軽く振って見せる。
(いつも使ってるのと重さは変わらないけれど、長さは少し短いかな。形状が違う分、重心の位置も少し違う。戦いながら早急に体に癖を覚えさせなきゃ)
「ねェマルコさん」
「なんだよい」
人混みの中から的確に目を合わせてきた少女に驚きながら返事をすると、フレイアがちょいちょいと自分の腕を指さす。
「これ外しても?」
「……ダメって言っても外すんだろい」
諦めを含んだ声音に軽く笑顔を返して点滴の繋がったチューブを取り外すと、肩を回してエルトンと向き直る。
「グララ、ほら、小娘はやる気みたいだぞ」
「エルトン! お前負けたら不寝番だぞ!!」
「ええ……おれ、年下の女の子には優しくしたいんだけど……おまけに怪我してるし」
「……それ、どういうこと?」
一瞬でフレイアの纏う空気が変わった。刺すような感覚に反射的にエルトンも臨戦態勢を取る。ヤジを飛ばしていた周りのクルー達も、小さな背中から出ているとは思えない強い威圧感に思わず息を飲んだ。
「私は……」
ツートーン程暗くなった瞳がエルトンに向けられる。
「自分が未だ小さいことも、女が基本的に男より力が弱いことも否定しないわ。事実は事実。どんなに否定したって変わらないもの。でも……」
タンッという軽い音だけを残して、フレイアが一気に距離を詰めた。
「小さいままで、弱いままでいられないから、努力だけは欠かさずしてきた。年下の女の子なんて理由はただの侮辱よ」
「っつ!」
金属同士のぶつかる澄んだ音が素早く二度響いた。首を狙った一撃と、弾かれた勢いを乗せた返し技。フレイアの攻撃を紙一重で防いでみせたエルトンが一度距離を取って構え直す。その表情に先程までの余裕はない。
「ついでに言えば、この怪我は体力のない私の自業自得だから、一切気にしてもらわなくて結構よ」
「ハハハ、馬鹿にするようなこと言ったのは取り消す、よ!」
今度はこちらの番だとばかりに踏み込んできたエルトンにフレイアは一瞬満足そうに笑みをみせ、直ぐ真剣な顔で迎えた。海賊団で一番小柄なものから借りたシャツでさえ袖が余るような小さな体が、当たり前のように大人が使っている刀を体の一部のように使い熟す様子に、取り囲むクルー達もいつしか真剣に見入っていた。