第5章 解けた先に交わるものもある
「そんなことが聞きたいんじゃなくて……」
「起きたのかい」
「……」
「……」
(聞き覚えがない声なんだけど、体の所に戻ってきたのよね?)
消毒液の匂いと他人の声で、意識が一気に覚醒した。全身痛みを感じるが、拘束されている様子はなく、寧ろ怪我が手当てされているあたり敵ではないと分かる。
黙って寝たフリをしたまま思考を巡らせていると、気配が枕元に移動してきて嫌な汗がフレイアの頬を伝う。素早く手が伸びてきたのを反射的に弾くと、大きく息を吐くのが聞こえた。
「何もしねェから起きたらどうだい」
「……」
恐る恐る目を開くと予想外の人物に体が飛び起きた。が、腹部の痛みに呻いて直ぐベッドに逆戻りする。
その様子をベッド脇の椅子に座って眺めていた男が黙って立ち上がった。
「元気そうだ」
「いた……なんで貴方が……あ、てことはここ」
「モビー・ディックの医務室だよい」
「やっぱり」
成る程、知り合いか否かと言われれば知らない人間ではない。しかし、とフレイアは夢の中の男を頭の中でぶん殴った。
(なんで敵船に送り込むのよ馬鹿! ビッグ・マムとか海軍本部に送られるよりマシだけど! そういう問題じゃない!)
1人悶々としていると、目の前に透明な液体の入ったコップが差し出された。
「何があったのか説明してもらうくらいはいいだろ」
「……」
「毒なんか」
「入ってない。分かってるわよ。でも、少しは警戒心持っておいて然るべきでしょ」
ごもっとも、とばかりに肩を竦めるマルコを一瞥してフレイアはコップに口をつけた。冷たい水が体全体にじわりと染み渡るような感覚に、強張っていた体が緩む。
「落ち着いたかい」
「ええ……まず、助けてくれてありがとうございました」
ベッドに座ったままながら深く頭を下げて礼を言うフレイアに軽くヒラヒラと手を振る。
「よせよい。お前を見つけたのはエルトンだ。礼ならそっちに」
「後で言うわ。それで、状況説明よね……簡単に言えば船から落ちてたまたま流れ着いた先に貴方達が居たってことになるかしら」
「エッド・ウォー沖から随分と流されたもんだねェ」
「ああ、知ってるの」
「金獅子とロジャーの激突となればな。お前さんの怪我の原因が分からなかったから、親子喧嘩して海戦の前に降りたって話にもなってたんだよい」
「お父さんと喧嘩なんかしたら死ぬわよ」