第5章 解けた先に交わるものもある
背後から聞こえた声に振り向くことなく男は笑った。
「見殺しにしてよかったのか? 酷い母親だな」
「海は平等なんでしょう」
「珍しく毒のある声だな」
「……なんであの子に直接的表現を避けたの」
あくまで顔を合わさないまま会話を続けていた男が、初めて後ろを僅かに振り向く。自分と同じようにマントを羽織った、自分より華奢な姿を認めた。目元を除けば先ほど隣にいた少女をそのまま成長させたような容姿で、父親と違って胡散臭さも感じない穏やかさを湛えたオーラのようなものを纏った女に男は意地の悪い笑みを向ける。
「何で死んでないんだって尋ねても、あいつは答えを持ってない。むしろおまえに尋ねるべきか? なんであいつは死なない?」
せせら嗤いながら言った男に、女は口をつぐむ。
「死ななかった上に、自分でゆっくり慣らすより矯正が早く進んで万々歳だろ」
「……私はあの子に生きて欲しい。ただ、それだけよ」
「そうかよ」
黙って景色に溶けるように消えていった女を見て、男はゆっくり部屋から出ていった。
「おーい、こっち来てくれ!」
「どうかしたのかい」
「女の子倒れてんだ。お前診てやれよ」
「この無人島に何で……って、こいつロジャーのところの船に乗ってる子じゃ」
「あ、そういや」
「……息はあるな。とりあえず船まで運ぶよい」