第5章 解けた先に交わるものもある
体を起こして男がフレイアの隣に座る。腰ほどまである髪を後ろに撫で付けながら、疲れたように息を吐く様子を見て恐る恐る声をかける。
「えっと、もしかして私を助けるのに凄く力を使った?」
「いや、久々にあそこまで大規模なことをしたけどそんなに負担じゃない。気になってることがあるだけだ」
「気になること?」
じっと自分を見上げていたフレイアの目を男が見返す。澄んだ紫色の中に垂れ目を軽く細めて、怪訝な顔をする自分が映っているのが見えた。
(まるで何でもなかったような顔しやがって)
ここに来ているということは、自分が死ぬ寸前であるということを本当に理解しているのか。ちょっと近くの島まで遊びに行くような気軽な場所ではないのに。
言いたいことは沢山あったが、それらを飲み込んで、こちらの話を待っている少女に口を開く。
「……お前、不思議じゃないのか」
「え?」
「少しの間浸かってただけで心臓に負担をかけてたのに、海に落ちたんだぞ」
「あぁ! たしかに最初は凄く痛かったけど、だんだんと楽になっていったのよね……慣れたのかしら」
「……海が平等性を失うわけないんだが、海の気紛れなのか別の理由があるのか。全く、この海のことで分からないことがあるのは癪だ」
機嫌が悪そうに眉をひそめた男の隣で、フレイアはじっと天井を眺めていた。
「私の身体は?」
「少し離れた島にお前の知り合いがいたから、そこに流しておいた。ついさっき拾われたぞ」
「私の知り合い?」
ロジャー海賊団ではない、自分を拾ってくれる知り合いなど祖父以外には思い当たらない。しかし、男の物言いからいって祖父ではない様子だ。誰だろうと首を傾げていると、急に眠気に襲われてフレイアの体から力が抜けていく。
「どうやら時間らしいな。今回も生存おめでとう」
「ねェ貴方は一体……」
「お前の祖先さ。それ以上でもそれ以下でもない」
男の応えにフレイアが何か言おうとした瞬間、姿が綺麗にその場から消えた。男はやれやれとばかりに頭をかいて上を見えた。
「おれは一体誰なのか、ね」
「よかったの? 助けてしまって」