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鏡面【ONE PIECE】

第5章 解けた先に交わるものもある


 沈んでいく。意識も体も。
 水と痛みにただ包まれていた。
 海の上は荒れているが、深部に行くほどに穏やかになっていく。
「……本当に死にかけるのが好きな奴だな」
 誰も居ないはずの深い海で呆れた声がフレイアの消えかけた意識に響いた。







「……っ!」
 パチリと一気に瞼が開いた。見覚えのあるような石造りの天井が見えて、フレイアはゆっくり身体を起こした。
「ここ」
「よう自殺志願者、ここに生きてる内に二回もくるなんて、なかなか出来ることじゃないぞ」
 いつかの夢の中と同じように、全身を覆うマントとフード姿の男は皮肉交じりに近づいてきた。
「え、私やっぱり死んだの?」
「生きてるって言っただろ」
 吐き捨てるように言ってフレイアの寝ていた石の台に座ると、男は溜息と同じくらい重い拳骨をフレイアの頭に落とす。
「いっ!」
「お前は馬鹿か? 普通あんな船がひしめきあってる荒れた海に落ちるか? 是が非でも避ける事態だろう」
「わざとじゃないわよ!」
「おれが海流を操って即離脱させなかったら船に轢かれて即死だったっつーの」
「……助けてくれてありがとうございます」
 頭をおさえながらも素直に感謝の言葉を述べると、男は鼻を鳴らしてフレイアの頭をもう一度叩いた。
「今度は何!?」
「いや、一度じゃその頭が治る気がしなくてな」
「私の頭を何だと思ってるのよ!」
「それ以上馬鹿にならない」
 勢いよく台の上に倒れると、男の顔を覆っていたフードが外れた。溢れた自分と同じ髪色と懐かしい瞳の色を見つめていると、軽く睨まれた。
「なんだよ」
「いや、お祖父ちゃんとそっくりだなって」
「お前の祖父ほど胡散臭い顔はしてない」
「胡散臭いって……確かに裏のある笑顔が張り付いてるタイプだけど」
「お前の方がよっぽど失礼だろ」
 苦笑しながら男がフレイアの頰に手を伸ばした。目元をそっと親指でなぞって、目を細める。
「なに」
「……いや、別に」
「ねェ、船のみんなはどうなったの?」
「おれが起こした海流の影響で海が更に荒れて、向こうの艦隊をそこそこひっくり返しちまったから痛み分けってところだな。今は海軍を撒いてる途中だ」
「じゃあ、そんなに時間は経ってないのね」
「まぁな」
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