第5章 解けた先に交わるものもある
すぐに強まっていく雨足と減らした分以上に増えた気がする敵に頭痛がする。最低限の動きでケリをつけるのがファイから教わった剣術の特徴ではあるが、それでもそろそろ体力がキツくなっていた。年齢を考えれば充分過ぎるほど戦えていると言えど、戦場でそんな泣き言は通用しない。
(シキだってこんな所で共倒れは避けたいはずだけど……)
体力の低下と共に余裕は奪われて、見聞色はまともに機能していない。自らの五感で感じた情報のみが頼りの半年前の戦闘スタイルに戻っているのを自覚してフレイアは苦笑した。
「はぁ……きっつ」
剣がいつも以上に重く感じて、右手で振っていた刀を両手でしっかり握りなおした。どんなに今きつくても死ぬよりマシだと気合を入れ直して、敵と対峙する。
しかし、彼女の限界が近いのは向こうも察する所だった。先程までより攻撃が掠める回数が増えているのは明白で、フレイアの剣筋が鈍っているため、一人を倒すのに時間がかかる。
再び四人程が一気に自分を標的にしたのを察してフレイアは舌打ちを漏らしながら思考を巡らせる。【明鏡止水】は未完成な上に今はスピードが落ちている。ここで使うのは得策ではないかもしれない。しかし、一人ずつ相手をできる状況ではない。
そんな一瞬の迷いが命取りになると彼女も頭では理解していた。それでも、迷いなく動けるほど経験は深くない。
二人目までは捌けたものの、あとが続かず脇腹を敵のカトラスが深く傷つける。
「っ!!」
「殺せ!」
残りが同時に迫ってくる目の前の光景と、背後に迫っている荒れた海を感じて、奥歯を噛み締めながらフレイアは構えを取る。
(今やらなきゃ死ぬ)
リズムがガタガタになっているのを感じながらも、再び足に強く力を入れた瞬間、雨と血でびしょ濡れだった床で靴底が滑った。
「あ」
強く踏み込んだ分だけの力で、重心が後ろに移動する。スローモーションのように目の前にいたはずの敵が自分の頭上に移動していく。
「フレイア!!!」
自分を呼ぶ声がした。
落ちていくのは一瞬だった。
最後に見たのは、自分に迫っていた敵を切り捨てたシャンクスの必死に伸ばす手だけだった。