第5章 解けた先に交わるものもある
シキへロジャーが応えるとほぼ同時に、大砲が一発。
開戦の合図だとばかりに鳴り響いた音で、その時エッド・ウォー沖にいた皆が自分の相棒に手をかけた。フレイアは怪しい雲行きと海を交互に見てから、柄に右手をかける。
「フレイア」
「わっ」
父親の声とともに、パーカーのフードが目深に被せられる。
「死ぬなよ」
「……はーい」
フードを被せた大きな手が軽く頭を叩くと、次の瞬間、風だけを残してファイの姿は消えていた。先頭を切って行ったロジャーの後ろの方に、隣にいたはずの長身の後ろ姿を認めてフレイアは小さく笑う。
「ボサッとしてんなよ、フレイア」
「分かってるわよ」
「あーもー、こんなところで死なねェからな!」
「当たり前だ」
「当然」
見習い三人は一瞬顔を見合わせて走り出した。
多勢に無勢、簡単に落とせると油断していた者も金獅子陣営の末端に多かった。しかし現実はそんなに甘くはないのだと、小一時間も経てば慢心は一種の恐怖に変わりつつあった。
「大砲が邪魔だな」
飛んできた弾を剣先で流しながらそう呟くと、ファイが勢いよく走って船首から飛び出した。悪化していく一方の強い風の中で、そんなの関係ないとばかりに空中で構えを取る。見えない刃を手近な船に向けて手元すら分からない速さで振るった。
【湖月】
一瞬の間をおいて、敵船のメインマストがゆっくりと倒れていく。船のあちこちから悲鳴が上がる中、沈んでいく船に用はないとばかりに、倒れてきたマストを足場にして隣の敵船の甲板に着地した。そして落ち着く間も無く、混乱している敵を手際よく切り捨てていく。普段の荒っぽい雰囲気とは真逆に、舞でも踊るように静かで無駄のない動き。
「……凄い」
オーロ・ジャクソンに残っていたフレイアが、思わず敵船の父親に見惚れる。自分の理想とする動きが目の前で惜しげも無く晒されている。そんな事実に、ゾクゾクと興奮が湧き上がってくるのを感じていた。
「余所見す」
「邪魔!!」
子供だと舐めきった動きを一瞬で見切ると、相手の動線に刀を流してあっさり斬りふせる。刀身についた血を軽く振って落とすも、すぐやって来る次の敵によって澄んだ鋼はすぐ染まってしまう。