第5章 解けた先に交わるものもある
「ん、どうした?」
血相を変えて飛び込んできた若いクルーは、今日の不寝番だったはずだ。ただならない様子にミランダとフレイアも厨房に向けていた足を止める。
「前方に大艦隊です」
「旗印は? 海軍か?」
「シキです! 金獅子!!」
「あのヤロウ、また懲りずに来たのか」
苦虫を噛み潰したような顔をするレイリーと何か考え込む素振りをみせるロジャーを前に、クルーはどうしていいか分からない様子でオロオロしている。
「そういやこの間、なんか電話来てたな」
「シキからか? なんだ、予告されてた襲撃か?」
「いや、なんかムカつく話だったからあまり覚えてねェ」
「オイ……」
「船長……」
「はァ……」
固まったクルー以外の三人が揃ってロジャーを見上げながら溜息を吐いた。いざという時には非常に頼りになるのに、どうしてこうも妙な所で抜けているのか。慣れていても呆れずにはいられなかった。
「まァ来ちまったものは仕方ねェだろ。おいフレイア」
「皆を起こしてきます!」
言われるや否や走り出したフレイアを、入り口付近にいたクルーが慌てて避ける。後ろの方で「おれも起こしてきます!」と聞こえたため、フレイアは真っ先に女性クルーの部屋に走って行った。
「皆、敵襲!」
よく通る鋭い声が部屋に響き渡ると、部屋にいた全員が飛び起きた。数人しかいない女性クルー達は全員寝起きがいいから助かる、と内心笑いながら父親含む寝起きの悪い男達のいる部屋に向かう。
「あれ」
道中で、いつもは起きてこない同じ見習い2人と父親に出会ってフレイアは目を丸くする。まだ寝癖がついていたり、着衣が乱れているものの、意識はしっかり起きているようだ。
「珍しい」
「流石に敵襲だったら起きるだろ……」
「たまに起きないわよ」
「どこの誰なんだ?」
「金獅子」
「あいつか」
ファイが楽しそうな表情を浮かべて愛刀の柄を握った。
(獲物を見つけた目だよ……)
それを見上げた三人は全員が同じことを考えて、少しファイから距離を取る。シキの艦隊には猛者も多く、強い相手大歓迎のファイからすれば、鴨が葱を背負って来るようなものだ。
「ファイさんだけ敵船に置いて逃げようぜ」
「流石にそれは無理だろ」
「無駄口叩いてないで甲板に出るぞ。面白いものが見られそうだ」
ファイはニヤリと意味深な笑みでそう言うと背を向けた。