第4章 新しい朝、そして懐古の夜更け
「一番最近死にかけたのはお前だろうが」
「悪魔の実じゃ死なないよ。お母さんだってそうだった」
「違いねェな。マイアの話は聞いたのか?」
「少しね」
首にかかったリングを軽く撫でながら笑う。つい最近まで父親の胸元で輝いていた筈のそれは、目を覚ました時には自分の手元にあった。ファイは何も言わなかった。だからフレイアも何も聞かなかった。
「お前ら親子のくせに遠慮しすぎだろ」
「だってお父さん、時々辛そうな顔で私を見るんだもん」
見張り台の縁にもたれかかりながら、フレイアは海をぼんやり眺めた。あいにくの曇り空は月を覆い隠しており、辺りはいつもの数倍暗い。
「ねェ……私ってそんなにお母さんに似てる?」
「結構似てると思うぞ。目つきが悪いのは父親譲りだから諦めろ」
「別にそこは気にしてないよ。お父さんの子供だもん」
「見ず知らずの人間の為に命を張れる優しさも、海を愛しているところも、あのマイペースなファイを振り回せるじゃじゃ馬っぷりもそっくりだ」
「最後は嬉しくないなァ」
文句を言いながらも満更でもなさそうに笑うフレイアにロジャーも酒瓶を傾けながら口許を緩める。
「全てを受け入れるような……慈愛に満ちた顔で笑う女だった、お前の母親は」
「……私もなれるかな」
「よせよせ! お前までマイアみたいになってどうする。お前はお前として生きろ。誰かの生き方を真似た人生に何の価値があるっていうんだ」
ロジャーの言葉に、ロジャーの力強い視線に、捕らわれて目も耳も一つに集中してしまう。常に聞こえる波の音さえも今ははるか遠い。
「……」
「お前はお前の生きたいように生きたらいい。それでこそ海賊ってもんだろ?」
「……うん」
「夜な夜な何かしてるみてェだが、程々にな」
「……それは無理かな。何かしてないと怖いの。それに、さっきワッチのシフト前に行ったら、久々に薄っすら聞こえたから」
「海の声か?」
「うん。私の声に応えてはくれなかったけど、きっと前進してるの。だから止めない」
「……そうか」
「うん」
決意を秘めた強いフレイアの眼差しを見て、ロジャーは軽く頷いて立ち上がった。
「お前が決めたならそれでいい。だがな……」
「え?」
酒が回っているのか、少しふらついた様子で見張り台から出たロジャーがフレイアを振り返る。