第4章 新しい朝、そして懐古の夜更け
「そんなに心配しなくても、アイツのことだから次の島は隣から離してもらえねェよ!」
「え、それ何が安心なの」
過保護はいつものことだと笑い飛ばすギャバンにフレイア本人は苦笑を返す。
「まァ少なくとも悪党は近寄ってこねェよ」
「寄ってきても返り討ちだな」
「そういうことだ! 皆に心配かけた罰だと思って暫くは大人しくしとけ!」
「へェ……バンさんも心配してくれたんだ?」
茶化すように言ったフレイアの頭を、ギャバンは真顔で叩く。
「おれだけじゃねェよ。あんまり年寄りの心臓をいじめるんじゃねェよ、バカ娘め」
「……はい、ごめんなさい」
きまりが悪そうに視線を外して謝ると、今度はシャンクスとバギーが彼女の背中を叩いた。
「ほら、行くなら行くぞ」
「今日は勝てそうな気がするな」
「……」
笑いながら先を歩いていく二人の背中をフレイアが呆然と見送ると、隣から押し殺した笑い声が降ってくる。
「いい兄貴を持って幸せだなァお前も」
「……別にお兄ちゃんじゃないし。あんな二人がお兄ちゃんだったら気苦労で禿げるわよ」
「ホー、じゃあ破天荒な娘を持ったおれ達もすぐ禿げそうだ」
「どういう意味よ!!」
「ハハハ、お前はそうやってるのが一番似合うってことだ。ほら行くぞ」
笑いながら食堂を出ていくギャバンの背中にこっそり舌を出して、フレイアも後追いかけた。その表情は言葉ほど拗ねても怒ってもおらず、むしろ安心したような笑顔だった。
「なに不貞腐れてんだ?」
「船長……別に。カードで負けただけ」
見張り台でワッチの業務をこなしていたフレイアの下にロジャーがやって来ると、自らも見張り台の中に入ってくる。随分安定した気候だが、夜中ともなると少々冷える。随分薄着で酒瓶を持っているロジャーを見て溜息を零すと、フレイアは自分の被っていた毛布をロジャーにかけた。
「お、悪いな」
「体は大切にしてくださいね。最果てに辿りつく前に船長が死ぬなんて笑い話にもならない」
「まだ死なねェよ」
「まだ……か」
不治の病に侵されながらも、初めて会った時と何も変わらない様子にフレイアは薄く笑う。この男ならば絶対に生き延びるであろうという、理由なき信頼があった。