第4章 新しい朝、そして懐古の夜更け
「ロジャーを見なかったか? ちょっかいをかけにきて、邪魔だったからお前らの方に行かせたんだが」
「野次がうるせェから追い出したぞ」
「お前ら本当に船長の扱い酷いよなァ」
「あ、いた」
今気付いたという顔をして、2人は端の方で座っていたロジャーを見る。
「ずっと大人しくいただろうが!」
「静かなのが珍しくて気付かなかったな」
「全くだ」
笑いながら言うレイリーとファイに臍を曲げたロジャーがそっぽを向く。
「子供か」
「あいつらの方が大人かもな」
「バカ言え。遊び疲れて寝ちまう内はガキだろうが」
「ハハ、違いない」
「フレイアの奴、ミイラ取りがミイラになったみたいだな。朝から殆ど休み無しだったから仕方ないか」
上の方から響いてくるミランダの起床を促す大きな声を聞きながら、3人は声を揃えて笑った。
夜中、こっそり1つの小さな影が船内の廊下を走っていた。周りを気にしながら覚えたての見聞色を駆使して人目につくことなく、目的の部屋に辿り着く。
「はぁ……やっぱり便利ねコレ」
人目を避けるのがとても楽になった、と独りごちるとフレイアが小さなボートにロープをしっかり結びつける。
「シャンとバギーに流石にこれは頼めないわよね……」
バレたら相当怒られることは必至だ。しかし、一度航海に出てしまうと、例え周り一帯が海だと言っても、中に入るのは少々難がある。悪魔の実を食べてからは尚更、大人達がいい顔をしないことは予想がついていた。
(私はそれでも海が好きだから)
浮かんできた父親の顔を、頭を振って追い出すと、船の側面にある扉を開ける。
甲板より随分近い波と強い潮の香りに笑みを浮かべて、ロープを結んだボートを慎重に落とした。予想より大きな音がして、思わず肩を震わせながら背後と甲板の方を確認するが、誰かが寄ってくる様子はなく、ホッと胸を撫で下ろした。
(今度からもう少し気をつけよ……)
ロープを伝って船の上に足を下ろすと、自分の体にもロープを結びつける。
「これだけやっておけば大丈夫かな」
固い結び方は幼少期から教わった船乗りの必須事項だ。軽く引っ張って緩まないことを確認すると、小さく息を吸ってゆっくり吐く。
黒々と波打つ夜の海は、いつ見ても足がすくむ。しかし、立ち止まっているわけにはいかないのだと、拳を握りながらゆっくり海の中に身を落とした。