第4章 新しい朝、そして懐古の夜更け
「よし、及第点」
「はァァ……疲れた」
陽が傾いて海が赤く染まった頃、やっとファイが刀を鞘に納めた。普段はフレイアが使っているそれを軽く片手で弄びながら、大の字になっている娘を見下ろす。
「どうだ?」
「……お父さんが珍しく笑ってる」
「そうだな、そこそこ楽しんでるぞ」
そこそこ、と言いながらも、我が子の成長が喜ばしいと顔に書かれているようだと周りを囲んでいたクルーも笑う。それをひと睨みで硬直させると、寝転んでいる娘の目隠しを外す。眩しそうに瞬きを繰り返すと、フレイアは勢いをつけて立ち上がった。
「明日から武装色?」
「始めてもいいが、お前二つも器用に出来るか?」
「やる!」
「悪魔の実の能力の方もそろそろ始めたいんだかな」
「ああ、そういやそうだな。そっちが先か」
タオルで汗を拭きながら歩いてきたレイリーの言葉に、少し表情を曇らせたフレイア。彼女が能力を使いたがっていないことはファイもレイリーも分かっている。それでも宝の持ち腐れにしておくよりも、使い熟せた方が生存率は高まる。いつ死ぬか分からない海の上で、1%でも生き残りの可能性を高めてやりたいという親心があった。
「そう悲観するな。お前の能力は使いようによってはお前の剣術をサポートこそすれ、邪魔にはならん」
「……はーい」
「不満しかないという顔だな! まァその話は明日からだ。今、上のデッキでお前の兄貴達が伸びてるから世話をしてやってくれ」
親指で指し示したデッキは、ここから見るだけでも柵やそばのマストの柱が大きく傷ついているのがわかる。その光景にフレイアは冷や汗が頬を伝うのを感じながら溜息を吐いた。
「あの体力有り余ってる2人が伸びてるって……」
「レイリーの鬼」
「褒め言葉か」
「んなわけあるか。フレイア、行ってこい」
「はーい」
(本当に生きているのかな……)
縁起でもないことを考えながら走っていく背中を見送ると、レイリーが思い出したようにファイに向き直る。