第4章 新しい朝、そして懐古の夜更け
「ほら、避けなきゃ死ぬぞ」
「分かって、るって!!」
甲板でファイが無造作に振るう刀を、目隠しをした状態で避けるフレイア。その様子を一定の距離を開けてクルー達が見守っていた。心配だからではなく、器用に避けるか自分が持った短刀で弾くフレイアの成長を実感して見惚れている。
修業を始めた半年前は生傷が絶えない毎日で、年頃の女の子なのにとファイに苦言を呈する者もいたが、最近では一切掠ることなく目隠しをしたまま全て避けることが可能なまでに上達を見せていた。
「元々のセンスが良かったな。この分だと、逆に武装色の方が苦労しそうだ」
二階デッキの上で観戦していたレイリーが言う傍では、シャンクスとバギーが荒い息を整えながら寝転んでいる。
「何でおれまで……は、巻き添えに……」
「暇だって、はァ……言ったのは、バギーだろ」
「ほら、そろそろ休憩は終わりだ」
「鬼ッ!!」
「どうとでも言え。死んでからじゃ文句も言えないからな」
そう言って二人の寝ているところに向けて刀を振り下したレイリー。慌てて起き上がった二人が構えると、近くで作業をしていたクルー達は蜘蛛の子を散らすように船内に避難していった。
「はは、レイリーもファイも楽しそうだねェ」
「お前も混ざってきたらどうだ?」
「冗談」
近くの椅子に座っていたロジャーの言葉を笑い飛ばすと、ミランダは洗濯物の皺を丁寧に伸ばしながら手際よく干し始める。金属のぶつかり合う小気味良い音と複数のステップを踏むような足音。敵船が来たにしては穏やかで、しかし味方に向けるには少々きつい殺気。直接姿を確認できる場所ではないものの、ちょっとした五感による情報と見聞色で探れば様子は分かる。ミランダの頬が緩むのを見て、ロジャーも笑った。
「子供の成長はほほえましいか?」
「まァね。特にフレイアは生まれた時から見てるんだから特別さ」
「違いねェ! 昔は膝丈もなかったのに最近直ぐに大きくなりやがる」
ちょろちょろと走り回っていた頃を思い出して目を細めると、おもむろにロジャーが立ち上がった。
「見に行くのかい?」
「おう。ちょっかいかけて遊んでくる」
悪戯っ子のような無邪気さを感じる笑顔を見送って、ミランダは洗濯籠からフレイアのシャツを一つ取り出した。
「まったく、子供の成長は嬉しくもあり寂しいもんだよ」