第4章 新しい朝、そして懐古の夜更け
「私も覇王色使えるのかな?」
「さァな」
「使う時、どんな感じなの?」
「え? うーん、おれもまだよく分かんねェけど、最初に使った時は怒ってた時かな」
「うーん、難しいな。お父さんの殺気で体が止まることはあるけど、あれは単純に死への本能的恐怖心だしな……」
「お前らマゾか」
死にかけながらも、さらに力を求める二人に思わずバギーがツッコむ。しかし、それに二人は一斉に首をかしげて口を開く。
「だって強くなりたいだろ?」
「お父さんに勝ちたいもの」
「やっぱりバカだろ」
バカとはなんだ、と抗議する二人を無視してバギーが波打ち際へ歩いていく。
「ところで、早くやらねェのかよフレイア」
「やるわよ」
「まったく、命知らずというかなんというか……やっぱりお前バカだろ」
「バカバカうるさいわよ!」
勢い付けて起き上がったフレイアは、逆にゆっくりとした足取りで海に足をつけた。足首くらいまで浸かったところで立ち止まり、深呼吸する。
「安心しろ、溺れてもシャンクスが助けるからな」
「おれだけか?」
「おれもカナヅチだっつーの!!」
未だ砂浜で座り込んでいるシャンクスにバギーが怒鳴ると、フレイアは意を決した様子で沖へ沖へと足を動かす。
(ああ、力が抜けていく……)
海に浸かる表面積が大きくなるほどに、身体が動かなくなっていく。肩のあたりまで浸かったところで、フレイアの身体が揺れた。
「あぶねっ」
「シャン……もう少しこのまま……」
「分かってるよ。溺れないように支えておくから」
いつの間にか真後ろまで来ていたシャンクスが、そっと彼女の身体に手を回して溺れないように浮かせる。それに安心した様子でフレイアは目を瞑る。
落ち着いた波が規則的に体を包み込む。今までならば、そうしていれば五月蠅いほどに語り掛けてきた海は、普通の人が感じるのと同じようにただそこに横たわっているだけ。
「……っ」
「フレイア」
「大丈夫」
否、長く浸かっていると、僅かに心臓に痛みが走り出す。決して大丈夫ではないが、これは彼女自身が望んだことだ。フレイアはぎゅっとシャンクスの腕を掴むと呼吸を落ち着けるように深く息を吸う。