第4章 新しい朝、そして懐古の夜更け
「これが覇王色の覇気……シャンクスに最初に教えるものだ。といっても、これは少々見聞色や、もう一つの武装色とは毛色が違ってな。元々使えるものが限られている上に、おれが教えるのはあくまでコントロールの仕方くらいだ」
「……なァ」
「何よ」
「まだ逃げたいか?」
シャンクスの問いにフレイアは軽く鼻を鳴らすと、口許に笑みを浮かべる。
「まさか」
「だな」
この海は強くなければ生き延びられない。それは子供である自分たちにとっても例外などではなく、むしろその程度の覚悟がないなら海賊船に乗っていないともいえる大前提。ならば、目の前に垂らされた糸は決して逃がしてはいけない。
「さて、腹は決まったか?」
「勿論」
「当然」
爛々と輝く二対の瞳を見て、レイリーとファイは無言で頷く。
それから業を煮やしたミランダが夕飯の時間だと怒鳴るまで、甲板に近づいたクルーは総じて気絶するか斬撃の余波を食らって怪我をするかの二択を迫られることになった。
「おお、お前らがぐったりしてんのも珍しいな」
「死ぬ」
「殺される」
オーロ・ジャクソン号をすぐそばに見上げる砂浜で力なく横たわるシャンクスとフレイアを見て、バギーは内心ほっとしていた。
(こいつ等が死にかけるってことは、おれだったら死んでたな)
「何させられてたんだよ」
「……何って」
「目隠ししてお父さんの蹴りを避けさせられたり……」
「レイリーさんが本気で打ち込んでくるのを必死に防いだり……」
「お父さんを相手にしてる後ろでレイさんは覇気放ってくるし……」
「突然現れた海王類を二人で倒せって言われて……」
「うっかり船から落ちかけた……」
「お前らよく生きてるな」
むしろお前らも怖い、と言いながらバギーが話を聞いて鳥肌の立った腕をさする。自分でも生きてるのが不思議だとばかりに笑う二人は、一斉に上半身を起こした。
「まァ強くなれるなら文句はねェよ」
「その前に死なねェといいな」
「縁起でもないこと言わないでよ。未だ武装色のこと微塵も教わってないんだから。お父さん曰く、お父さんの剣術は武装色と見聞色を十二分に使いこなせていないとダメらしいわ」
軽くストレッチをしながら溜息を吐くフレイアの隣で「おれも、向き不向きはあるけど全部習得しておくに越したことはないってさ」とシャンクスが伸びをしながら言う。