第1章 見習いトリオ
「声が大きい!」
シャンクスがバギーの口と動きを封じると、フレイアがそっと扉の外を窺って内側から鍵をかける。
(あ、ミスった)
バギーが冷や汗をかきながら自らの前後でニコニコと笑顔を浮かべる二人を見上げる。唯一の逃げ場である出口も助けを呼ぶ口も塞がれていては何もできない。
「バギー」
「んん」
「何も聞いてないよな?」
蛇に睨まれた蛙に選択権などない。有無も言わさぬ二人の気配にバギーが必死に首を縦に振ると、シャンクスがバギーを拘束していた手を外す。
「こ、今回だけだからな! 次見つけたら絶対にレイリーさんに言うからな!!」
「バギーに見つかってるようじゃあ、レイリーさんを騙せるわけねェだろ」
「私達がどれだけ気を付けながら上陸してると思ってるのよ」
「さっさと見つかってしまえ……」
どうして正しいのは自分なのに負けたようになっているのか、解せないという顔をしながらバギーは床に置いていた仕分け済みの地図を雑に棚に突っ込んだ。すると、少し揺れた棚の中から一枚の紙が風に乗って落ちてきた。
「ん、なんだそれ」
「世界の全体像を簡単に書いたものみたいね」
拾い上げたバギーの手元を先程のようにフレイアとシャンクスが横から覗き込む。
「……南極と北極ってどっちが寒いのかな」
「何だよ突然」
「いや、なんとなく」
「そんなもん決まってるだろ」
「そうだぞ。お前そんなことも知らないのか」
シャンクスとバギーの小馬鹿にしたような言葉に唇を尖らせたフレイアが苛立ちを隠さない声音を出す。
「不勉強で悪かったわね! じゃあ二人は知ってるのよね!?」
「当たり前だろ」
「まあな」
「じゃあどっちなの?」
「南極」
「北極」
同時に真逆の答えを発したシャンクスとバギーがゆっくり顔を見合わせる。嵐の前の静けさを感じ取ったフレイアは一人静かに溜息を零すことしか出来なかった。
「南極だ!」
「北極に決まってんだろ!」
お互いの胸ぐらをつかんで怒鳴りあう二人に呼応するように埃が辺りを舞う。それを軽く片手で払いながら、フレイアは散らかされては困る地図を手際よく片づけた。こうなった二人を止められるのは、副船長であるレイリーただ一人だ。下らない疑問を口にした数分前の自分を恨むことしかフレイアには出来なかった。